なぜ魔軍司令ハドラーは敵の得意分野で戦ってしまうのか

物理には物理を、魔法には魔法を

ダイの大冒険本編において、中期までの(魔軍司令時代の)ハドラーはめちゃめちゃ立ち回りが不器用であり、結構勝てる勝負を落としています。
ほぼ勝ちが決まっていたヒュンケルに殺られてしまった、闇討ちしたのにマトリフに粘られた結果ダイの復活を許しハド / ラーしてしまったのはその最たるものでしょう。

これらはアバンのベギラマに対してベギラマを返す、マァムの物理攻撃に対してとりあえず物理で応戦してから魔法を使う、明らかに魔法が得意なポップに対してベギラマを使い、ベギラマを返されて押し負けたらベギラゴンを見せつける*1…という敵の同じ分野での技で勝とうとする、もっと言えば勝ち方にこだわる悪癖がある事に由来します。

ヒュンケル戦序盤の苦戦はヒュンケルが魔法を無効化して物理を強要してくるクソキャラだった事が原因ですが*2*3
マトリフに苦戦していた(事が原因でダイの参戦を許した)件は、魔法で戦うからあのような事になったのであって、対マトリフの正解は「近づいて物理で殴る」です。
ポップにせよマトリフにせよ地獄の爪があるのだからそれで刺せば終わりだったわけで、実際ハドラー魔王時代、ガンガディアはマトリフとの魔法戦の最中突如ルーラから接近戦に切り替える事でマトリフを下しています。

マトリフの背を地に付けさせた者はダイの大冒険本編まで見渡してもガンガディア一人でしたからこれは極めて有効な手段だったといえるでしょう。
ハドラーはルーラを使用せず、マトリフにはトベルーラがありますが、あの時マトリフはダイ達のディフェンスに徹していたので逃げ回るような事は出来ず、(少なくとも)馬鹿正直に魔法で戦う必要はなかったわけで、魔法を選んだのは完全に手癖です。

ではなぜそんな悪癖があるのかという話なのですが、これは魔王時代はマジでそれで勝ててしまった事が大きいと考えられます。
根本的な力量差のあったアバン初戦は言うに及ばず、

サババでの対決でもわざわざアバンに最高の力を発揮させてやった上でそれを凌いで自分のターンに入る余裕があり、

ウロドの決闘でもバーンパレス環境で通用する(というか本編中を上回る)拳聖ブロキーナを相手にしてすら押し勝てる所まで行っている*4など、

魔王時代のハドラーは基本的に全分野で負けなしです。
アバンやブロキーナが相手でこれなんですから、当時の環境では本当に全ての相手に相手側の得意分野で戦って勝てたと考えられ、それ故魔王ハドラーはあらゆる戦いで勝ち方にこだわる余裕があり、

またその事がハドラーの自分が最強であるという自信の源でもあったのだと思われます。


そもそも秘法の使用自体がハドラーは正攻法では倒せないと判断しての選択だった*5事や、
実際アバンが負けた時に備えて影でバランがスタンバっていた(アバンが無理なら天罰前提だった=他の誰にも倒せない判定だった)事からもわかる通り、
魔王ハドラーは当時の地上では常軌を逸して強く、環境定義キャラですが正直勇者アバン環境に存在してはならない化け物です。
地上では最強だったというミストバーンの評はまさに正解であり、この時点でハドラーが自分を最強と認識する事は何の問題もなかったと言えるでしょう。


…ただ、ハドラーは既に自分が最強とは言えなくなってしまったダイの大冒険本編でもそれを引きずってしまっていた。
俺は最強だから、相手の得意分野で戦っても本当は勝てるはずだからと相手の得意分野で挑んでしまう。
でも実際にはそれは無理があって、結局苦戦したり、追い詰められたりして、挙句の果てには真っ二つ。

獄炎の魔王では絶賛プライドへし折られ中のハドラー様ですが、彼の生涯で決定的にプライドが砕けたのはやはり勇者アバンに敗れ(てあとついでにバーン様に命を弄ばれ手駒にされ)た時だと考えられ、
蘇った彼は自分が最強という世界観を破壊されたショックからどうしてもへし折られたプライド、魔王時代の「最強の自分」という栄光を求めてしまっていたのでしょう。(なので禁呪法で当時の精神が反映されたフレイザードはああいう性格)
実際魔軍司令時代のハドラーに関しては

ハドラー 今までお前がアバンの使徒に敗れ続けたのは
精神的なもろさやおごりがあったからだ…
最強の肉体と才能を持ちながら
慢心と動揺の繰り返しで敗北し続けた…

…魔族の体にはもはや未練などない!
むしろ我が身を捨て去ることによって
かつては世界を席巻した魔王だったなどという
つまらぬ見栄も捨てられたのだ!

己の立場を可愛がっている男に
真の勝利などないっ!

…思えば魔王軍六大団長は最強のメンバーだった
だがダイ達に勝つ事はできなかった……
指揮官であるオレの心に野望と保身以外の感情が無かったからだ…!

…と精神的脆さ、驕り、慢心、動揺、見栄、保身といった部分が度々指摘されたりハドラー自身も反省したりしており、「最強の魔王だった自分」への拘りこそが彼の弱点であったと言えるのではないかと思います。

余談

ちなみにそうした立ち回りの不器用さとは別に、ぶっちゃけ魔王ハドラーと比べて魔軍司令ハドラーは弱体化しているというか、圧倒的に精彩を欠いている所があり、これも苦戦の原因として大きかったと考えられます。(多分本人は気づいてすらいなかったのですが)
もちろんカタログスペックで言えば魔王時代より魔軍司令時代の方が圧倒的に強いはずなのですが、怖さというか、戦場での強さという意味では魔王ハドラーの方が数段上かなと。
というか魔軍司令が再生怪人過ぎる。

実は勇者アバン環境のハドラーは攻撃が効きませんでした。
空の技が無いアバンストラッシュはダメ、メラゾーマもダメ、レイラのピオラ乗せたナイフもダメ、閃華裂光拳も見切られてダメ、ロカの馬鹿力や奇襲攻撃もダメ。(初戦は腕落ちたけど)
ベタンもそもそも回避されてます。
獄炎の魔王において、偶然出た三位一体アバンストラッシュと初戦でのロカの不意打ち以外ではハドラーは決定的ダメージを受けておらず、
最強の閃華裂光拳を持つブロキーナでさえハドラーとのタイマンは劣勢、粘れこそするものの倒せはせず彼のスタミナが切れた時点でハドラーはまだ十分余力を残しており正直まるで勝ち目はない(あれ以上続けてもブロキーナが殺されるだけ)…とマジで何をやっても倒せないクソキャラです。
これは火力が本編に比べてデフレしているためハドラーが相対的に硬いというのもあるのですが、
なんと言ってもそもそも危険な攻撃はで察知して回避・防御するため基本的に何をやってもダメージが通らないというのが大きいです。

魔軍司令時代はどうもこの勘が働いてない。

ヒュンケルの最期の一撃(大嘘)を受けてしまったのが特にそうなのですが、魔王時代のハドラーならあんな攻撃は食わなかった(「何かを感じる」事ができた)はずなのです。
多分先述の精神的な問題か、もしくは「バーン様に頂いた最強の肉体」への過信が悪く作用しているのでしょう。
もしくは、そのセンサーは恐怖と表裏一体でしたから、恐怖を感じた自分を受け入れられないあまり封じてしまっていたのかもしれません。

またアグレッシブさについても守りに入っている魔軍司令時代よりも魔王時代(ウロド以前)の方が勝っており、自身に対して致命打となりうる閃華裂光拳を見せられた後でもハドラーは老師相手に果敢に攻め込んでおり、これが正着となって押し勝ちまで行っていました。
が、正直これが魔軍司令時代にできるかというと…。


光魔の杖のリスクにも気付けたし、ハドラーは攻めてる時の方が強いよ。


ちなみにここらへんを相対比較で見ていくと
・魔軍司令ハドラーに剣時代のヒュンケルはやや有利
・剣を持ったヒュンケルと剣を持ったロンベルクはほぼ互角
・剣を持ったロンベルクと闇の衣状態のミストバーンは互角
・本編時老師は1分間ならミストバーンを一方的にボコボコにできる
・魔王ハドラーは本編時老師よりも強い当時の老師と互角に*6戦いスタミナ差で押し勝つ事ができる
という感じなので、
魔軍司令ハドラーにやや優勢となる剣ヒュンケルと互角の腕前を持つロンベルクと互角の腕前を持つミストバーンを一方的にボコボコにできるブロキーナと互角以上に戦える魔王ハドラーというよくわからない感じになっており、
ヒュンケルが脂の乗っていた時期だったというのもありますが、技だけで言えば接近戦でもハドラーは本来ヒュンケルに劣るはずは無いのです。

最後の一撃を受けてしまった事と言い、やはりこれは精神的後退の影響があり、多分魔軍司令が「弱い」のではないかなと思わされます。*7

なおこの記事を書いてる途中で21日を迎え、獄炎の魔王が更新されたのですが、30話ではブロキーナ老師によるハドラーの強さの解説が行われており、その一つとして「異常な勘の良さで致命傷を回避してくる」事が挙げられていました。
合ってたぜヒャッホイ。

 

*1:これ気付かなかったんですがアバンがベギラマ対決で負けたのの意趣返しなんですね

*2:ハドラーは物魔万能型なので魔法を無効化して近接物理特化のヒュンケルと相性が悪い。恐らく元はアバンメタのビルドなんですが、アバンとハドラーはタイプが同じなので…

*3:逆に鎧の魔剣が無ければ最初のイオナズンで終わってます

*4:閃華裂光拳を解禁した老師がフルパワーで攻め立てたにも関わらずハドラーは倒れず、結局大したダメージを与えられないまま先に老師のスタミナが切れている

*5:実質的にはギブアップ宣言に近い

*6:有効打を入れられずに

*7:魔法耐性のせいで呪文での牽制とかができなかったのが響いた…という可能性は考えられますが、どの道ハドラーは「前衛にぴったりつかれると小さい呪文しか撃てない」のでそんなに影響はなかったと思われます