ガンガディアについて無限に解釈を語るだけの文章

まだ先月分の感想も書いてないんですが前から書きたかったので。
ガンガディアはいいぞ文書というか、ガンガディアを読み解こうと試みる文書です。
なんか書いてたら長くなっちゃったけどまあ気になったところだけ読んでください。
現在最後の登場シーンまで書いてますがまとめみたいなのはできてません。


shonenjumpplus.com
ちなみにこの記事を書いた時点ではジャンプ+の最新二話でガンガディアVSマトリフの最終決戦を読むことができますので未読の方はこの機会にお読みになるとよいのでは。

ガンガディアとは


ダイの大冒険」しか知らない方向けに説明しますと、ガンガディアはダイの大冒険の前日譚スピンオフ「勇者アバンと獄炎の魔王」において、
地上征服を目論むハドラー魔王軍*1の幹部(いわゆるハドラー四天王)として登場したキャラクターで、
本編で魔王ハドラーの縁者であったことが示されていたブラスやバルトスらと異なり、スピンオフ用に新たにデザインされた存在です。

種族名も(四天王のもう一体のオリジナルモンスターであるキギロの「亜人面樹」同様)漫画オリジナルの「デストロール」となっています。ボストロールとかけてあってナイスネーミング。
 

基本的なキャラ造形

知性

デストロールガンガディア。
 
彼の特徴は粗暴なトロル族にあって非常に知的な点にあります。
なんと作中彼が熟慮して「判断」した事柄は基本的に間違っていないという慧眼ぶりで、勇者アバンの動向、大魔導士マトリフの撃破方法、戦場における最善の布陣、アバン側の持ちうる切り札、彼我の力関係、選ぶべき最適な作戦、主君ハドラーの心理状態等、全てにおいて「正解」を導き出しています。
魔王ハドラーも彼の知性を大変信頼しており、ハドラーは重要な事案では大抵ガンガディアに意見を求めますし、自身の不在時には魔王軍全体を指揮する事すら許しているなど、実質的な副官の地位をも与えている程です。
ハドラーが暴れ出した時に*2抑え込むのも彼の仕事ですし、ハドラーが地上を進軍する時に伴わせるのも常に彼です。
まあこれはブラスは後方支援要員、バルトスは地底魔城の守備担当という配置の関係もあるようですが(キギロはスタンドプレーの結果早期に戦闘不能)。

努力とコンプレックス


無理もない話だ…
樽のような巨体を震わせ…
よだれを垂らした品の無い顔で……
原始的な武器を振りかざしながら襲ってくる……
暴力しか能のない魔物!
トロル一族というのは皆そうだと君達も思っているんだろう?
私は…昔からそう思われるのが
死ぬほど嫌でね!

――――だから身体も絞り込んだ!
必死にあらゆることを勉強し知識を高めた!
この図書館も学習のために手に入れたのだ!

しかし彼の知性及び魔力・臂力は、単に生来のものという訳ではなく、
自らの属するトロル一族に対する差別の視線と、そんなトロル一族自体への嫌悪・コンプレックスをバネに凄まじい努力を重ねて会得したものです。
そのため彼は他の下等なトロルと同列視される事を嫌っており、普段は冷静で紳士的ながら単にトロルとして罵倒される*3と激昂する弱点があり、また同時に優れた知性に対しては敬意と羨望を抱くという性質も持っています。

他のトロルとの接し方

ガンガディアは同族であるトロル達の事は、戦力としては用いますが基本的に軽蔑しており、やられようが慌てていようが塩対応です。
むしろ事あるごとに詰っているまである。
部下として重用していたのは同じ巨人族のトロルやギガンテスでなく別種族であるエビルマージの「知恵者」でした(これも結局自分で処刑しましたが)。

お褒めの言葉

ハドラーは彼を褒める際に「慧眼」「粗暴なトロル一族の異端児」と言った表現で、彼が最も欲している「お前は他のトロルとは違う知的な存在だ」という評価を与えており、恐らくこれが忠誠心の由来の一つになっています。
ノってる時はマジでコミュニケーションうまいなコイツ。

呪文と超パワー

今や私より呪文に詳しいものは魔王軍にもいない!

先述の通りガンガディアは魔力を持ち、トロルでありながら多くの呪文を使いこなします。
魔王ハドラーのように極大呪文を扱えるわけではなく、魔法力そのものもハドラーには及ばないと思われますが、「私より呪文に詳しいものは魔王軍にもいない」と豪語する通り学習を重ねた知識面ではハドラーをも凌いでいるようです。
ヒャダルコやイオラ、トベルーラ等戦闘向けのものは当然、ハドラーには無理そうなイオの分散打ちによる範囲攻撃と言った小技まで持っています。
魔法の儀式なども執り行う事ができ、封印されたハドラーを復活させていました。禁呪法によるバルトス製造にも一枚噛んでいる可能性がある。
また当然ながらトロルの上位種族であり、鍛え上げられているためフィジカル面に関しても圧倒的であり、
本家大地斬を腕一本で受け止める*4程の防御力と、
棍棒の振り下ろしでロカ*5の必殺技と競り合う程の攻撃力を兼ね備えています。

そのパワーはハドラーと互角とも評されており、当然魔法使いのマトリフくらいならワンパンでKOできます。

物魔両面を高水準で兼ね備えたその強さは初登場時マトリフをして「まだ戦ってはいけない相手」と言わしめた程。(まあその直後マトリフが単独で撃破したけどね)

技術力

ここまででも意味不明なくらい高スペックなのですが、地味に機械技術にも明るいようで、ダイの大冒険の読み切りに登場したキラーマシーンは実は彼が製造したものです。*6
ハドラーが修行のために祈りの間に閉じこもり、アバンパーティの活躍を眺めていることしかできず苛立っていた際に造ったっぽいのですが、その強さはダイの大冒険の方でも示されていた通であり、魔法は効かないわ物理も硬いわ、アバン達がいなければ単騎でパプニカを落としていたと思われます。*7
しれっと何作ってくれてんだコイツ…。

作中の活躍・関連描写及びそこから読み取れる事

一巻

一巻はハドラー四天王最初の刺客であるキギロを撃破して終わるのであまり大きく話には絡まないのですが、
四天王同士の関係を見せたり、ハドラーにアバンに関する意見を求められたり、ハドラーと一緒に悪魔の目玉を介してキギロと通信したりと言った描写が見られました。

人間関係Ⅰ 倒せば君の武勲になる


領地拡大を担当するキギロに任務上一番アバンと出くわす可能性が高い旨を伝えるハドラーと、わざとらしく怯えて見せるキギロ。
ガンガディアはキギロに倒せば武勲であると告げますが、キギロはそういうのはあなたの得意でしょと笑って去りました。
大魔王軍と比べて圧倒的に人間関係*8が良い事で知られるハドラー魔王軍ですが、ガンガディアとキギロは特に仲が良く、ハドラーの御前でお互いに含むところを理解しながら白々しい会話をして笑い、更にハドラーは(嘘乙みたいな顔で)面白そうにそれを見ている…という良好な仲間関係が構築されています。

アバンに関する見解

ハドラーに問われてアバンの人柄と動向を推測。
彼の結論が正鵠を射ていたのは前述のとおりですが、「アバンは頭が切れるから実力を上げる最適の手段として武者修行に出る」という診断について、
血管を浮かび上がらせながら「私でもそうする」と付け加えていた事が興味深いです。
この言葉はアバンの知性を評価した事のほかに、ガンガディアの行動基準が「適切な解決」にある事を示してもいます。 

キギロは城におらんようですな…

案の定キギロが無断で出撃した事をハドラーに報告するガンガディア。
ハドラーは「それでなくてはあいつらしくない」と笑って許します。

ガンガディアはキギロは旅立ったばかりの冒険者には荷が重い相手である事を述べ、お気に入りが倒されてしまうのではないかと忠告しますが、
ハドラーの見解は「それならアバンは俺の遊び相手になれる器ではなかったという事」というあっさりしたものでした。
この時期のハドラーが部下のスタンドプレーを面白がって黙認するタイプであり、部下も全員その前提で行動していることがわかりますね。

キギロとの通信

アバンと接触(し撃退され)たキギロがハドラーと通信。
ガンガディアはハドラーの玉座の傍で会話を聞いていた一方バルトスは不在でしたので、やはり魔王軍の運営上はガンガディアは最強の騎士バルトスより高い立場にある事が感じられますね。

なおキギロが己の敗走を隠蔽していた事はハドラーにもガンガディアにも自明でしたが、二人とも突っ込まずにおいてあげていました。(ハドラーは後で笑ってましたが)

二巻

本格登場。
ハドラーの傍で話し相手になったりしつつ、管理していた魔導図書館でアバン達と交戦。
アバンパーティを圧倒しますが、復活したマトリフに敗北、
魔導図書館を破壊し切り札となる呪文書を回収して撤収しました。

人間関係Ⅱ 作物トーク


一巻で敗北したキギロに対する懲罰として、ハドラーは彼を地底魔城の壁に植えこんで回復させつつその様子を見世物にするという措置を取りました。
キギロにはこたえる罰だというガンガディアに対してハドラーは「人間の作物の中には過酷な環境の方が味が良くなるものがあるらしい」「この屈辱がキギロはもっと強く成長するかもしれん」と笑います。
この描写から(ガンガディアがハドラーの披露した作物知識を把握していたかはわかりませんが)ハドラーがガンガディアに「ウケるトークを振ってくる」関係にある事はわかりますね。
キギロに対してもそうでしたが、ハドラーは直属の部下に対してはオラつきつつもなかなかフレンドリーです。 

ヨミカイン魔導図書館

アバン達が呪文書を求めて訪れたヨミカイン魔導図書館という施設は元々人間側の英霊が管理していたのですが、
作中時点ではガンガディアが自らの知力を高める目的で制圧し所有下に置いていたため、魔物たちのうろつくダンジョンと成り果てていました。

ガンガディアにとって図書館は「知識欲を満たしてくれる憩いの場所」であり、「学習のために手に入れた」ものでもあるとの事で、彼の非常に強い向上心が感じ取れます。 

魔物を合成する禁呪法

魔導図書館内を彷徨っていたのは禁呪法によって合成された魔物たちです。
図書館の所有者がガンガディアである事を考えるとこれらはガンガディアの作品である=ガンガディアにも合成の禁呪法は扱える可能性がある事がわかります。
*9
3巻ではザムザの作成した技術的により高度な(初期超魔生物学の産物である)合成魔物も登場するのですが、それを見たハドラーの感想は「禁呪法で合成したのか?」でしたから、比較的ポピュラーな禁呪法なのでしょう。ポピュラーな禁呪法って何だよ。
まあ魔物同士の合成方面でも行くところまで行けばフレイザードですから、図書館にいた奴もハドラーの習作である可能性もありますが)

ガンガディアの他者評価

魔導図書館の管理は「館長」のエビルマージに任されていました。
最終的には戦闘中のダメージから魔法の暴発で本棚に火をつけてしまった事でガンガディアに処刑されてしまうのですが、
ダイの大冒険では上位呪文として扱われるベギラマを習得している、アバンの剣をいなす等中々の強者であり、ガンガディアは彼について

なかなか知恵が回る男だったので気に入っていのだが……
まあ頭脳だけ優れていても勝てん
やはり……力が無くては!

と述べており、(「他のトロルとの接し方」の項目でも書きましたが)部下(他者)についてまず種族でなく、「知性」を重視しており、さらに「力」があればなおよし…というという考え方をしていることがわかります。
直後の会話においても既にキギロを倒しているアバンに対して

博識だね
戦闘の素質だけでなくその頭脳も素晴らしい
勇者アバン……!
ハドラー様が興味を持たれるのも無理はない

と知性について評価しています。

突然変異種

アバンによってデストロールがトロル族の突然変異種である事が語られます。 

魔王様トーク

遠くない将来
この世界を束ねる覇者の名前となるだろう

結果的にハドラーの名前をアバンに教えるガンガディア。
「覇者として支配する」というのは作中世界における魔物・魔族のかなり普遍的な思考回路であり、ハドラーは当然ガンガディアも「そっち側」である事がわかります。
なお「遠くない将来」という表現ですが、別にハドラー魔王軍はそこまで熱心に効率プレイで世界を制圧しているわけではなく、
ハドラーくんが「人間弱すぎつまんない!」「楽しく世界侵略したい!」「遊び相手欲しい!」という思考のため全体的に割とのんびりめに運営されており、実際には舐めプしていなければ作中までに余裕で世界制圧を完了できていたと考えられます。*10 *11
ガチれば負けなかった。*12 

人間側としての君の主張の正しさは認める


古代より伝わる魔導書の数々が燃えてしまった事を「やってくれたものだ」と嘆くガンガディアに、「元々お前が人間界から不当に奪い取ったものだし、火を出したのはお前の部下なんだから勝手な事を言うな」と怒るロカ。
ガンガディアは答えます。

知っている
だからちゃんと奴を処罰しただろう?
人間側としての君の主張の正しさは認める
かましい声を上げなくてもいい

「人間側としての君の主張の正しさは認める」という言葉は「いや言うとおりだよねだから責めないよゴメンネ」というニュアンスではまあ無く、
どちらかというと「君達からはそういう解釈になるだろうという事は理解できる」寄りの表現で、要は「私の解釈は違うよ」という否定なのではないかと感じられます。

先に処分された「館長」は「大切な本を盗もうとした罪人には死の罰を与える」と述べていた他、少し後ではガンガディア自身が本に封じられたマトリフを「盗掘者」と評してもおり、本来人間であるマトリフが魔導図書館を利用しようとしたことに何の問題もないハズである(盗掘者などと呼ばれる謂れはない)事を考えると、
「魔王軍の管理する図書館を人間が利用する事自体が魔王軍的にはダメだから死んでもらうね」というのが彼が述べたかった「魔王軍側としての正しい主張」という事になるのでしょう。*13


クロコダインやオトギリ姫なんかもそうだったのですが、魔物・魔族の強豪というのは基本的に「強い者が奪い支配する」という価値観を持っているため、概ね人間という弱い種族を見下しており、対等の会話は成立しないのです。(ラーハルト父とかロンベルクは変わり者)
部下を粛清した事を「ちゃんと奴を処罰しただろう?」=「我々の法でこうしたけど?」と述べた事もアバンの反感を買っていました。

無理もない話だ

売り言葉に買い言葉、更にロカに「気取って話してんじゃねぇこのデカブツが」と罵倒され*14 *15、思いっきり地雷を踏まれたガンガディアは激昂、暴れ出します。

……いや… ……わかる
わかるとも

無理もない話だ…
樽のような巨体を震わせ…
よだれを垂らした品の無い顔で……
原始的な武器を振りかざしながら襲ってくる……
暴力しか能のない魔物!
トロル一族というのは皆そうだと君達も思っているんだろう?
私は…昔からそう思われるのが
死ぬほど嫌でね!

「努力とコンプレックス」の項でも引用していますので、既に解釈を述べた部分については割愛しますが、
デカブツと呼ばれる事について「わかる」「無理もない話だ」と述べているのも地味に注目ポイントであるように思われます。
ガンガディアは「デカブツ」という屈辱的な、彼にとっての差別用語に対して「理解はできる」と述べているのです。
連想ゲームを始めてしまっているところはアレですし、もちろん許す事は全くできず一瞬で沸騰していますが、「そう思うのが自然だ」とは理解はしている。
自分の感情とは別に他人がどう考えるのか推察する事ができるというのは普通に能力であり、後で効いてきます。 

ガンガディアの戦慄

ロカ、アバン、レイラの総攻撃を一人で押しのけるガンガディア。
キギロをも打ち破った大地斬を腕一本で弾き飛ばし格の違いを見せつけます。(今さっき習得したパワーアップ形態限定の必殺技なのに次の話で破られる豪破一刀…)

見せてあげよう!
学習と工夫を重ねた
この私の呪文攻撃をっ!

更に倒れた彼らをガンガディアは追撃、イオを杖の殴打で射出し分散させ三人を同時に攻撃するという自慢の攻撃を披露します。
…が、マトリフ登場以降は火力対決が重要になっていくのでこの方面の小技は二度と出てきませんでした…。  

興奮しすぎたかな?

フーッ
……興奮しすぎたかな?
まあよかろう
たしかにハドラー様はアバンを気にかけていたがこうも言った
「キギロに敗れるようならそこまで」……と
それは私に負けたとしても同じ事……のはず!

ついうっかり殺すところまで来ちゃったけどまあハドラー様はお許しになるよねとアバン達にとどめを刺そうとするガンガディア。
本当はハドラー様のために見逃すつもりくらいはあったみたいですね。
殺しちゃダメな理由にハドラー様を挙げているので、一応通常の行動基準よりハドラー様の御意向が上にある事がわかります。
殺っちゃっても許されるだろうなと思っているから結局殺そうとしていますが、ハドラーの発言次第では自制していたのでしょう。

処刑

中々の詩人だな
だが本に喰われるような愚者が私に意見するとは片腹痛い
楽にしてあげよう

ふん
コソ泥め

アバン達を見逃してやって欲しいと願い出た封印状態のマトリフを処刑するガンガディア。*16
主な罪状は「盗掘」と「愚者の分際でこの私に意見した事」であり、
ガンガディアが殊更愚者を軽蔑しておりその意見には全く取り合わない事や魔王軍の理屈で人間を殺す行為に何の抵抗もない事がわかります。 

マトリフとの初邂逅

バカな!貴様……
二つの呪文を同時に?
しかも攻撃呪文と回復呪文を!
まさか……賢者だったのか?

ガンガディアに一杯食わせて復活したマトリフは、いきなりメラゾーマでガンガディアのメラゾーマを相殺しつつロカに回復呪文をかけるという離れ業を見せつけます。
二つの呪文を同時に扱う姿に賢者だったのかと問うガンガディアに対して「オレにはお前みたいなインテリ願望はねえ」と大魔導士を名乗るマトリフ。
二人の長きにわたる因縁の始まりです。
…ところで「そんな事をできるとすれば賢者に決まっている」と言いたげなガンガディアでしたが、正直パプニカ三賢者とかテムジンにそんな事ができるとは思えず、なんならアバン*17やバルゴート*18にもできそうにないので、ジョブとしての賢者がそういう事をできるというよりは、「本来なら不可能な事だが賢者ならそういう事もあり得るかもしれない」くらいの意味で賢者を出したっぽいですね。

多分シグマの「まさか賢者!?」発言もそれ。
実際大魔導士はマトリフやポップが勝手に名乗っているだけで既存のカテゴリでは賢者なわけでしょうし。

重圧呪文

いまさら少々人数が増えたところで何になる?
この私の力と呪文の前で―――…
打つ手などないはず!

賢者であろうと大魔導士であろうともどうせ私を倒せるわけではなしと構えるガンガディアに対してマトリフは「お前みたいなデカブツに効果的な呪文を食らわせてやる」と挑発しガンガディアの突撃を誘発、重圧呪文ベタンで図書館の下層に落として撃破します。

なんだこの呪文は!
身体が…重い!
身動きできん!

敵がでけえ程この呪文は効く
あばよデカブツ
大好きな本に埋もれてくたばりな!

この時点ではガンガディアはマトリフを(既に一度出し抜かれている上で)「知恵があっても力が無いなら叩き殺せば済む相手」と軽視していましたが、想定外の呪文によって敗北を喫した形になります。
「デカブツ」と挑発され冷静さを欠いた事もあるでしょうが、大抵の攻撃呪文ならどうにでも対処できるのは事実であり、勝敗を分けた一番大きな要因はやはりベタンという「ガンガディアの知識にない、彼を倒せる呪文」の存在でしょう。
この呪文はマトリフが開発したオリジナル呪文だと言われていますから知らなかったのは当然でもあり、ガンガディアにマトリフ自体が注目すべき相手だと認識させるのには充分です。
ちなみに露骨に弱点っぽいデカブツ煽りですが、ブチギレて冷静さを欠いた突撃をするのはこの時が最後であり、そもそも煽られる事自体今後なかった。(ザボエラが関係ない時に煽って来た以外では)
なおこの後何度かの交戦を経てガンガディアの尊敬を勝ち取っていくマトリフですが、もし封印された理由がエロ本を読もうとしたからだと知られた場合どうなっていたかは定かではありません。 

撤退

……そんな危険な魔法使いがいるとわかった以上
この図書館の古代呪文を利用されてはたまらないからね
始末に限ると判断した
私に最も適した最強呪文の目星は付けてある
この一冊さえあれば十分…
今日は不覚をとった 認めよう
勉強して出直してくるよ…勇者御一行!

魔導図書館を爆破して退却するガンガディア。
既にマトリフの危険性を理解しており、そのために「学習のために手に入れた」「憩いの場」である魔導図書館を自ら破壊する決断を下しています。
またこの際自分にとって重要な呪文書だけは回収しており、
あんな屈辱的な負け方をした*19直後であるにもかかわらず、そして極めて不本意な行動であるにもかかわらず、徹底的に魔王軍にとって正しい選択をしている形になります。

この「不本意な形となっても、客観的に見て最大の利益を得られる選択肢が選べる判断力」こそがガンガディア最大の強みであり、以後もこの要素こそがマトリフ達を苦しめ続けます。
ちなみに退却時はトベルーラで浮かび上がってアバン達と会話した後キメラの翼で地底魔城に帰還…という方法を取っており、ルーラは使用できない事が示されていました。(ポップとは逆の習得パターンですね)
「あばよデカブツ」と煽っていたマトリフですが、ガンガディアが去った後は「厄介な敵だぜあいつ」「あれで側近レベルだってんだから気が遠くなる」とこぼしています。

三巻

前回大暴れしたのでおやすみの回。
興奮して暴れるハドラーを止めたりキギロくんと楽しくおしゃべりしたり地底魔城ライフを過ごしています。

人間関係Ⅲ 水の当番を変えよう


相変わらず晒し物にされ無知性系の魔物にテキトーに水やりされていたキギロにきちんと水をかけてやるガンガディア。
そのまま隣に座り込み(座禅スタイル)、アバンパーティと交戦した事や敵方への大魔導士マトリフの加入といった近況報告なんかをしたりしていました。
一巻では敗走を隠したりしていたキギロですが、晒し物になる以外には罰があったわけでもないようで、この巻では堂々と小さい身体で普通にガンガディアと話しており、ここでもハドラー魔王軍の良好な人間関係が伺えます。(まあザボエラもクロコダインを蘇生してやってはいましたが…)
 
もう少し知恵の回る魔物に水の当番を変えよう、とのことでしたがバルトスが配慮したのかキギロの水やりはこの後はヒュンケルの担当になっています。こうした所にもやはり良好な幹部同士の関係が見て取れますね。(6歳くらいの子供に水持たせて地底魔城の階段登らせるの可哀想だろ) 

余談 四天王同士の格付け・個人間の関係について

ちなみにハドラー四天王では最近加入したブラスを除けばキギロが基本的に末っ子キャラであり、ガンガディアに対しては呼び捨てにするものの敬語、バルトスにはさん付け。
バルトスは一巻ではブラスに敬語を使っていたものの、それ以降では「案ずるな」等長兄的な接し方をしており、またキギロに対しても敬称はつけつつも「落ち着けキギロ殿」といった話し方をする一方ガンガディアに対してほぼ対等~ややへりくだった態度。
ブラスは一番格下なので作中会話した他の四天王全員に敬称を付けて敬語。
ガンガディアは他の四天王全員に対して常に対等の態度でハドラー以外に敬語は使用しない。
といった形になっており、
四天王内ではガンガディア≧バルトス>キギロ>ブラスという格付けがあるものの、キギロとガンガディアは特に親しいものと思われます。(ハドラーが禁呪法で生み出した「息子」であるバルトスの立場が微妙に難しいというのもあるでしょうが)

 

人間関係Ⅳ それでこそあの御方

……わかるよ
ハドラー様の高ぶるお気持ちは……
今や私も同感だからな………!

「アバンが同じ大陸に来ている」と聞いてテンションが上がって暴れ出したハドラーを(ホルキアにいた所でどこにいるかは掴めず会うのは無理なため)止めたガンガディアですが、同時に「その気持ちはわかる」と笑みを浮かべます。
強者との戦いを望む好戦的な性格がハドラーと共通しているわけですね。


……おられん!
…それでこそあの御方――
とは思うが……

なお、キギロとハドラー様トークをした後玉座の間に戻るとハドラーは既に不在であり、アバンの足取りを追う方法を求めてザボエラのアジトへと向かっていました。
ガンガディアは止めた所でハドラーは結局やりたいようにやってしまう事に対して「それでこそあの御方」と評しています。
ハドラーは進言を聞かないのが普通。
(よく考えるとガンガディアが話していたのは地底魔城の入口側だったのにどうやって気付かれずに外出したんでしょうか?また例の魔王ワープですかね?) 

私に最も適した最強呪文


アバンが海底宮のオトギリ姫を倒した頃、ガンガディアは魔導図書館から持ち出した最強呪文の魔導書を試していました。
よく見ると右手の形が変わっており、呪文の性質が暗示されています。
まあ私は正直これには気付かず、大方の予想と同じくバイキルトマホカンタあたりだと思っていたのですが…。
この後アバンの動向を知ったハドラーが興奮のあまり邪気を溢れさせ、地底魔城を震撼、ひいては三幹部を戦慄させたところで三巻は終了。
間近で邪気を浴びて殉職した悪魔の目玉くんかわいそう。

四巻

ザボエラの協力を得たハドラーがアバンの現在地を掴んだことで再びアバン達と接触
今度は軍を引き連れての登場であり、主君ハドラーと共にアバンパーティを挟撃します。

魔王軍の襲撃

やあ大魔導士
すまんね買い物の邪魔をしたかな?
…まあこちらとしては
「いい所で会った」としか言えないが

魔王ハドラーがお得意の落雷ワープでサババの港に現れた頃、町の反対側に巨人族の軍団を引き連れたガンガディアが姿を現しました。
マトリフは彼に与えられた役目が「港にいるアバンの退路を断つために町の外側から破壊していく」事にあると見抜きます。

さすがに察しがいい

マトリフの「やっぱな」って反応がウケる。友達か?
「さすがに察しがいい」という表現が示している通り、ガンガディアは既にマトリフを頭の回る魔法使いとして十分評価していますね。
なお「いい所で会った」が指すのは、アバンのパーティにおける危険分子であるマトリフを自分が釘付けにできている現在の状況についてであり、こちらは狙ったわけではなくマジで偶然エンカしただけ(暴れてたら別行動してたマトリフ達だけ都合よく出てきた)なので本当に「ラッキー!」と思っています。 

だから巨人族はバカにされる

工夫の無い戦い方だな
だから巨人族はバカにされる

マトリフとロカに倒される配下のギガンテスとトロル達。
ですが先述の通りガンガディアは同族を蔑視しており塩対応です。
お前達がそんなザマなのだからバカにされるのも当然だと追い討ちをかけてすらいます。
下等な巨人族に対して本当に厳しい。

同じ結論

取り巻きを片付けガンガディアを前衛に引きずり出したマトリフはアバンを援護させるためロカを離脱させました。
マトリフさえアバンと分断できていれば満足とガンガディアもそれを見逃し、マトリフとの対決に意欲をみなぎらせます。
既に「危険であり、また魔法で自分に一杯食わせたマトリフは自分が担当する」という認識を固めているわけですね。
ガンガディアは問います。

さて
前回の戦いを踏まえて
デカブツのトロルは
君とどう戦うと思うね?

これは対等の頭脳を持つ相手に対して知恵比べを望む意思の表明であり、前回デカブツという言葉で挑発されて破れた事への自嘲、ひいては同じ手は食わないという宣言でもあり、また自らがトロルという相手にとっての危険なデカブツであるという事の暗示でもあります。

強力な呪文を打たれないよう
魔力を高める隙を与えず
常に接近して戦うだろうな
ちょっとでもこづければそっちの勝ちだ

初期のポップが呪文を出す前に力んでいたり、ベギラマあたりに妙な型があったりと、
通常魔法使いには大呪文を行使する際には「溜め」が必要であるという共通の弱点があります。*20 *21
すなわち、呪文を放つ前に発生の速い物理の大火力で叩かれると為す術がないわけですが、「デカブツのトロル」であるガンガディアならそれこそ小突くだけでその「発生の速い物理の大火力」を実現できますから、
冷静さを保ち大呪文を使う隙を与えないように意識して攻撃してくる場合、ガンガディアは魔法使いにとって天敵です。

安心した
私の結論と同じだ

満面の笑みで「わかってくれて嬉しい、言う通り魔法を使わせずに撲殺するよ(意訳)」と宣言するガンガディア。
マトリフは呪文を唱える距離を稼ぐためトベルーラで離脱しますが、ガンガディアも同じくトベルーラで追跡します。
じゃあ魔導図書館の時トベルーラで突っ込んできてたらマトリフ死んでたのかな
マトリフは「これだから頭のいい奴は面倒なんだよ」と心の中で愚痴っており、やはり「魔法を拒否して物理でしばく」こそが魔法使いにとって最悪の戦法である事が読み取れます。鎧の魔剣ヒュンケル最低だな。(それは本当にそう。パプニカ滅ぼしてるし)

憧れ

マトリフのトベルーラの速度が低下し、更には袋小路に入り込んだことでガンガディアの剛腕がマトリフの背中にかかると思われた刹那、
マトリフは身をかわしつつバギマでガンガディアを押し出し、それによって加速していた彼を廃船に放り込み、更に廃船にベギラマを放って逃走します。(非現住建造物等放火罪)
デストロールのガンガディアにとってバギマも廃船ダイブもベギラマも船の火災も決定的なダメージにはならないのですが、
マトリフの仕事はガンガディアを撒いてさっさとアバンの救援に行く事であり、この場でガンガディアを倒す事ではありません。
ガンガディアが燃える廃船から這い出るまでにはある程度時間がかかりましたから、これで目的は達成できています。

まんまとこの場所に誘き出されたという訳か……
真空呪文バギマをタイミング良く仕掛け自分は逃れつつ私をここへ押し込んだ
彼には圧倒的な体格差を覆すほどの知力がある
……憧れる!

自らの知性で魔法使いに対する最適解を選び、暴力で確実に抹殺できる計算だったものが、それを上回る知性によって再び出し抜かれた。
こうなってはマトリフが知性において、魔法使いとして自らの上を行くことを認めるしかありません。
知性とはガンガディアにとって最も価値のある指標であり、生きる目標ですから、自らを超える知性を見せたマトリフにガンガディアはそのまま憧れを抱きます。
ちなみに(記事書くまで失念していましたが)マトリフもサババ来訪は初めてであり、ルーラで来れずロカに舟を漕がせて到達していますから、地形把握はトベルーラでのチェイスの間に行って作戦を立てたと思われます。マジで凄すぎる。*22 

トロルの部下

アバンとハドラーが戦っていた港にマトリフよりやや遅れて到着したガンガディアですが、チェイスの際に稼がれたわずかな時間のためにルーラでの逃走を許してしまいます。

わめくな
ルーラで逃げられたらどこに去ったかわからん
打つ手はない

配下のトロルは動転して叫びますが、意味のないバカなパニックであるためガンガディアは相変わらずの塩対応です。 

魔界の神の像


アバンストラッシュによって吹き飛ばされたハドラーを救うため死の大地まで駆けつけるガンガディア。
本来ハドラーはそれなりの深手と精神へのダメージを負っていましたが、干渉してきた自称魔界の神によって回復されており、ガンガディアが到着した時点では身体的には無傷となっていました。
神話方向の知識についてはハドラーの方が詳しく、それすら「伝承を知っている」止まりだったため、流石のガンガディアにもそれが魔界の神の干渉であったとは察せません。
地底魔城に戻るハドラーが得体の知れない神の像を持っている事に気づいたところで四巻での出番は終了。

五巻

再びおやすみの巻。
マジで殆ど出番がなく、なんと4コマしか出てきません。

キギロくんの新能力

キギロがデルムリン島をった だと?
瞬間移動呪文ルーラでいずこかに飛び去り
 悪魔の目玉たちでも見つけられないアバンの居場所を……
 自力で嗅ぎつけたというのか?)
……なにか新しい力に目覚めた か?

戦線復帰できず武勲を稼げない事に苛立ち、より回復を早める方法を求めてデルムリン島を訪れてブラスの世話を受けていたキギロがついにデルムリン島を離れたという報告を受け、その背景を推測。
5巻での台詞、これだけw!
なお例によってこの推測も当たっています。こわい。

六巻

再び大活躍の巻。
アバンパーティの活躍とキギロの敗退、更にはハドラーが引きこもりになってしまった事によって苛立ちながら魔王軍を運営。
それでも地道な活動からキラーマシンを完成させたりアバンの足取りを掴んだりし、
その後アバンの挑戦によりアバンとハドラーの決闘が成立したためハドラー側の仲間として再び前線に。
しかし「爆発」が起き…。

人間関係Ⅴ ガンガディアの孤独

……苛立ちもする
勇者どもは神出鬼没
オーザムで魔物の氷原を壊滅させまた姿を消した
キギロとも連絡が取れぬ

ハドラー様は祈りの間にこもったままだ
時折凄まじい衝撃音だけが響く
一心不乱に己を鍛え上げているようだ……
ほぼ私一人で軍を動かしているようなものだ
孤独だよ

アバン達が魔王軍の勢力を削りキギロもどうやら敗死、更にハドラー様が怪しい宗教にハマってしまったと最近一つもいい事の無いガンガディア、開幕からイライラMAXで地底魔城を歩いています。
この会話は地味に興味深い所で、魔王軍のガンガディアと言えど孤独は嫌いだという事と、ハドラー様やキギロがいれば孤独ではないという事が読み取れます。
三巻のオトギリ姫なんかもそうだったのですが、突然変異で生まれる魔物の上位種というのはその飛びぬけた能力故に同族の中にも居場所を得る事ができず孤独になりがちです。

私とて最初は同族の夫を探したが
みな我が力に耐えきれずに引きちぎれてしまったのだ
強ささえあればもう人間でもいいかなって♡

よくも!よくも私をこの姿に!
「深海の大魔獣」と呼ばれ
同族からも恐れられ続けた
この忌まわしき身体
に戻してくれたな!

コミカルに描かれていましたが、海底の覇者であり婿など選び放題であったはずのオトギリ姫がわざわざ婚活に励む必要があり、挙句は別種族*23である人間での妥協すら考え始めたのは、「変異種である己のあまりの力に同族は耐えられなかったから」「生まれ持った姿と力ゆえに魔獣と呼ばれ誰からも恐れられていたから」であり、つまり同族の中においてすら孤独だったからです。異種族で妥協できるならハドラーに求婚すればいいだろ…。

工夫の無い戦い方だな
だから巨人族はバカにされる

わめくな
ルーラで逃げられたらどこに去ったかわからん
打つ手はない

トロル族の突然変異種であるガンガディアも同様であり、
彼はトロルやギガンテスなどの巨人族を率いてはいますが、その誰もが彼の期待する知性を持つことができず、彼と同じ水準で物を考える事ができません。
それ故ガンガディアは部下である彼らを蔑み、決定は常に一人で下しています。
同族の中においてさえ彼は絶対的に孤独なのです。

こうした飛びぬけた力故の孤独というものはダイの大冒険でも描かれてきましたし、獄炎の魔王においても、あまりの天才ゆえに人々から恐れられ遠ざけられたジニュアールⅠ世や、そのジニュアールⅠ世の子孫として生まれたために自らの力を隠し続けるアバン、その魔力故に恐れ妬まれ嫌な目にあい続けたマトリフといった形で描かれていますから、あの世界では特別な者はその特別さ故に孤独になるのが普通なのだと思われます。*24
しかしハドラー魔王軍にいれば、地底魔城にいれば違う。

魔王ハドラーはその力故にガンガディアを恐れる事が無く、同等の知性で物事を考え、己を「他のトロルとは違う」と評価し副官の地位まで認めてくれる主君ですし、
キギロも同じ突然変異であり、気安く話しかけてくる対等のライバルであり仲間です。*25
また気に入っていた「知恵の回るエビルマージ」も恐らくはハドラーの魔物たちを支配する邪気によって従えた者たちの中から選りすぐった者であり*26 *27
ハドラー様の下にいれば彼は孤独ではないのです。

しかしこの時点では(自分で処刑したエビルマージはともかく)それらの要素は全て奪われており、それゆえ彼は孤独に苦しんでいるのだと考えられます。

ところでこの禁呪法生命のガイコツの奴は明らかにヤバそうなガンガディアに「おおガンガディアどの」「なにやら苛立っておられるようだな」とか気安く話しかけてましたがこいつは普段何をやってるんですかね?
一応ハドラーが前線に出ている時の地底魔城の守備担当は常に彼という都合はあるようなのですが、ハドラーがいる時はガンガディアを手伝うとかできるのでは?
孤独だって言われてるんだが?
一人で軍を動かしているようなものだ」とかまで言われてるんだが?
「貴公がハドラー様の信頼を得ているからこその苦労よ」「頑張ってくれ」じゃないんだが?

余談 強豪たちは何故奪い、何故覇権を争うのか

魔王ハドラーを筆頭に、ザボエラ、クロコダイン、オトギリ姫と魔族魔物の強豪たちは野心を持ち、ザボエラやオトギリ姫などは自らが覇権を握ろうと機会を伺っています。
ガンガディアやキギロもハドラー魔王軍に属していなければやはり土着の強豪として生きていた事は想像に難くなく*28、この世界における強豪は独自の勢力である事が常です。
これは(まあ「そういう時代だから、そういう奴が多く出てくる漫画だから」と言えばそれまでなのですが)傑出した力を持つ彼らは、どの道同族の中で普通に生きていくことはできない=必然的に孤独であるため独立せざるを得ず、独立すればその力故に当然の如く王となってしまうという事が原因ではないかと考えられます。
同時に彼らには常に奪うだけの力があり、欲するものを奪い集める事ができる(また普通に暮らしていては得られない)ため、王としての性格は覇王になってしまう…とか。
恐らく単に「魔物や魔族は基本の思考回路が収奪」という訳ではなく、ロンベルクは普通に武具を売って稼いだ金で酒を買っていた他、ハドラーも悪魔の大目玉を受け取る際ザボエラに金?を払っており*29、ザボエラですらハドラー救出作戦において協力を求めたクロコダインに報酬を支払っていましたから、静かに暮らしたいとかギブアンドテイクの関係にあるといった状況では彼らは奪わないことがわかり、つまり強豪たちの普段の収奪行為は「奪っても困らないから奪っている」事が導けます。
クロコダインは孤独という問題は全く抱えていないにもかかわらずスポーツ感覚で暴れまわって(=強いから暴れて)おり、ハドラーもそのタイプであると考えられるため、「独立せざるを得ない」と「できるからやってしまう」は独立の要素でありつつそれぞれが覇王ルートへの起点になる要素であると言え、「傑出して生まれた時点で覇王に向いている」のは間違いないとは思われます。
「同族の中では浮いていたため独立せざるを得ない」「傑出した力故に独立すれば王となってしまう」「奪える側であるから奪うようになる」の三要素が合わさった結果高確率で覇王路線に入ってしまうとかそういう感じで強豪たちに共通する「覇者が支配する」価値観が獲得されていくのでは。 

殺人機械

例え勇者が空振りでも
パプニカを滅ぼすには最適だ……!

孤独に苦しみながらも悪魔の目玉による地道な調査によってパプニカにおけるアバンの仲間らしき者の目撃情報を得たガンガディアは、パプニカに自ら造り上げたキラーマシーンを送り込みます。
舐めプしてただけでやりたければいつでも国落としくらいできたハドラー魔王軍ではありますが、とうとうガンガディアが真面目に国落としクエを進めてしまった。
このキラーマシーンダイの大冒険の読み切りでバロンの搭乗したアレであり、強力な呪文耐性とロカの通常攻撃程度なら弾き返す装甲、更には謎レーザーまで搭載しているため、アバン達が現れなければまず確実にパプニカを滅ぼす事ができ、またアバン達が現れたならそれはそれで不明だった動向をキャッチする事ができるというガチの戦略兵器です。
最終的にはロカと駆け付けたアバンのダブル豪破一刀によって破壊されますが、これによってアバン達の動向を掴むことには成功しました。*30 

果たし状


鏡に血文字を描く魔族特有の呪法によってハドラーの下にアバンからの果たし状が届き、ハドラーが祈りの間から動き出します。 
長くガンガディアを放置し孤独を味わわせていたハドラーですが、久々に見せたその顔は気迫に満ちており、ガンガディアに苦労を掛けただけの意味があったようです。
(バーンもハドラーも人間相手に魔族文字で連絡入れて翻訳の手間を負わせてたのにアバンはちゃんと相手に合わせて魔族文字で連絡してて偉い)

余談 言うほど絶対来るか?


ところで果たし状で指定された日時は凍れる時間の秘法が皆既日食を必要とする都合上なんと翌日であり、スケジュール的にはかなり綱渡りをしています。(マトリフにもハドラーが来るか真面目に心配されていました)
アバンは「ハドラーは必ず来る、性格的に無視できるはずがない」と言っていましたが、もしハドラーが全然関係ない国を攻めてたとかザボエラの所に出かけてたとかで距離的に来れなかったり、寝てて気づかなかったりしたらどうするつもりだったんでしょうか。
たまたま地底魔城と決闘で指定されたウロド荒野は同じホルキア大陸だったので大した苦労もありませんでしたが、この時点では地底魔城の所在は割れていないのでこれはマジで偶然です。
またそもそもハドラーはこの時祈りの間に閉じこもっていたので近くの鏡に通信が届いてもその部屋に入らなかったとか瞑想中だったとかで気付かれなあった可能性は割とあり、都合よく祈りの間に鏡があって都合よくそっちを見たから連絡が届いたのめちゃラッキーだったのでは。

余談 地底魔城とガンガディア


ハドラーの激昂を察知し祈りの間に向かうガンガディアですが、この時入り口をくぐるために身をかがめています。
地底魔城は日常的にガンガディアが通る場所はガンガディアが通れるサイズで作られていますが、ガンガディアが通常訪れる事の無い部屋(ハドラーの私室である祈りの間など)の扉はガンガディア非対応サイズなので屈まないと通れないんですね。



最も重要な玉座の間はガンガディアも通れるサイズですから、(あとから改築したので無ければ)ガンガディアは地底魔城立ち上げの頃からいた古参という事になりそうです。*31

ちなみにガンガディアの私室は来客向けか中央に小さい扉もついており、二重構造になっています。

決闘

本編の回想でも描かれていたウロド荒野での決闘にガンガディアも参戦します。
スピンオフ用のオリジナルキャラクターであるガンガディアは当然回想の映像には存在しなかったためどのような扱いになるものかと思っていましたが、マトリフのベタンを警戒し最初から離れた場所に待機、魔物の軍勢を抑え込むべくベタンが発動した後で登場したという形にする事で解決されました。
相変わらずベタンが極めて重要な呪文として扱われ、それをいかに攻略するかに焦点が当てられているのが面白いですね。
今回もガンガディアの狙いは「危険なマトリフを自由に行動させないために自分がマトリフと対決する」事にあり、強力な攻撃呪文によってマトリフのベタンを中断させ、乱戦の形式を強制する事に成功しました。
まあもう一人危険なジジイが参戦していたので結局ハドラー様は大変な事になっていたのですが…。
なお、自らの強さの証明のためとはいえ一応ある程度のフェアプレイ精神を持っている魔王軍的に少数の相手を魔物の軍勢で囲む行為はどうなのかというのは誰もが一度考える事でしょうが、これについてはこちらの記事の「ハドラー的には闇討ちは卑怯なのに決闘で魔物の軍勢使うのは卑怯じゃないの?」の項をご覧ください。

瞬間移動呪文


乱戦のさなか、息が上がったマトリフが注意を外した隙を突いてガンガディアは新規習得のルーラを発動。
瞬時に接近し剛腕を叩きこむことでついにマトリフを下す事に成功します。

ずっと狙い続けてきた「魔法使いは近付かれて物理で叩かれると脆い」を証明した形になりますね。
(色々アレとはいえ)カタログスペックは非常に高い魔軍司令ハドラーでも魔法対決ではマトリフに勝てなかった事を考えると、ガンガディアが物理で攻める事を徹底してマトリフを戦闘不能に追い込んだのは紛れもない「正解」であり、彼の知力の現れです。

感極まる

勝負あったな
できるなら腕力で勝ちたくはなかったが……

へっ何言ってんだよ
呪文の工夫あってこそだろ

いつの間にかルーラも覚えてやがったとは
敵としちゃ最悪だが
大した奴だぜオメーは

……あなたに評価されると最高に嬉しい

マトリフを倒しながらも自らの理想とする形ではなかったことを悔やむガンガディアに対して、工夫のたまものだと賛辞を贈るマトリフ。
ガンガディアの理想が知性と魔法にある以上、純粋な魔法対決での勝利とは言えないこの形は望ましいものではないのですが、
マトリフが褒めた通り、隙を突いてこれまで見せていないルーラを使用、瞬時に近付いて腕力で制圧するのは完全な「正解」であり、

理想形でないにもかかわらずその選択をできた事自体がガンガディアの知性の証明です。
魔導図書館を爆破した時と同様、彼の最大の強みが発揮された形と言ってもいいでしょう。
憧れのマトリフに称賛されたガンガディアは「……あなたに評価されると最高に嬉しい」と言葉を漏らします。
マトリフに評価される事は主君ハドラーに評価されること以上に嬉しい。 
マトリフを呼ぶとき「あなた」という言葉を使っているのもポイントです。  

誘爆


撲殺よりは楽だろうとマトリフへのトドメに火炎系呪文を選択したガンガディアを前に、マトリフは師匠から使用を戒められていたメラとヒャドの合成を思い出しました。
言葉巧みに最大火力の炎を作らせ、自らは同じ威力の氷を重ねる事で万物を消滅せしめる大爆発を誘発、魔物の軍勢を壊滅させ、ガンガディアをも撃退します。

……ルーラで離脱しなければ消滅していた……
ハドラー様
お許しを…

ガンガディアはルーラで離脱こそしたものの大ダメージを負い到底戦線復帰できず、ハドラー様に謝罪しながらダウン。
殆ど死ぬようなダメージを受けた末に失神するという場面で呟くのがハドラー様への「お許しを」なのが彼の忠誠心の高さを示していますね。

一方マトリフは逃げたわけでもないのになんか普通に生存しており、この部分が後の展開に大きく響きます。
…ガンガディアはルーラで離脱しなければ消滅してたとまで言ってるのになんでマトリフは普通に生きてんだ…?

赤丸で囲んだ奴がマトリフなんですがなぜ爆心部にいたのにこんな場所まで都合よく逃れられている…?体重が軽いからか…?

余談 もし撲殺を選んでいたら

もしガンガディアが焼殺でなく撲殺を選択していればマトリフのうっちゃりは成立せず、そのまま殺害に成功していたので、魔王軍的には慈悲をかけた事が裏目となった形ですが、
撲殺ルートの場合「爆発」が起きないのでハドラーに隙ができないとか凍れる時間の秘法自体が阻止される等で恐らくハドラー側が勝利、アバンは死んでしまい、そうなるとそのままスタンバっていたバランが登場、粛清ルート突入…という流れになっていたため、結果的にはよかったと考えられます。

余談 瞬間移動呪文

ルーラによって一度は倒されたマトリフですが、後に彼がポップの指導を引き受けた際一番最初に仕込んだのがこのルーラでした。

それに…ルーラなんか覚えたって戦いの役には立たないじゃんか…!!

…生意気ぬかすなッ!!!

魔法使いの魔法ってのはな仲間を守るためのものなんだ
無数の呪文と知識を抱え皆の危機をはらうのが魔法使いの役目だ
もしお前がルーラを使えていたら炎上する気球船からたやすく仲間を救えたことがわからんのか!!?

ルーラなんて戦いの役に立たないから今覚えても仕方がないと難色を示すポップをマトリフは一喝しその価値の高さを説きます。
ルーラの活用によって魔王軍との駆け引きを有利に進め、またルーラの有効活用によって痛打を受けたマトリフとしては「ルーラ」なんかという言葉は殊更看過できなかったのかも…。
実際この後ルーラは戦闘中非戦闘中を問わず大活躍しますので「最初にルーラ」は正解でした。

捜索

ご存命なのは間違いない!
だがガンガディアどのが懸命に捜索しているがまだ見つかってはいないのだ
おそらく勇者にその力を封印され何処かに連れ去られたのではないだろうか

「爆発」の後、ウロドではアバンが凍れる時の秘法を発動し自身を犠牲にハドラーを封印、更に封印された両者をマトリフが持ち去ってしまったため、
ガンガディアが再び行動可能になった時には既にハドラーの行方はわからなくなってしまっていました。
ハドラーと命が繋がっているバルトスが生きていることからハドラーもまた生存している事自体は間違いなく、ガンガディアは懸命に捜索しますが、
封印された両者のうちハドラーの方はその後更に魔法を遮断する感じの壕にしまわれてしまったため、見つける事ができませんでした。
ハドラーの封印によって邪気が弱まったため魔王軍の戦力も低下してしまい、各地で敗退するなど勢力的に衰退、このまま一年近くの月日が流れる事になります。

七巻

前刊に続いて大活躍。
ザボエラとクロコダイン、そしてミストバーンの助力によりハドラーを復活させますが、同時にアバンも復活し…。

そうか…彼が獣王!

以前からハドラーどのの勇名は聞いていた
武人として捨て置けず力を貸したまでだ

突如地底魔城に封印状態のハドラーを担いだクロコダインが現れ、ガンガディア達に主君の身柄を引き渡します。
得意のヒートブレスで対魔法の結界を突破してハドラーを回収していたんですね。
ガンガディアは感謝を述べクロコダインに名を尋ねますが、クロコダインは俺の名前などどうでもよかろうと笑い、
ハドラーを見つけたのはザボエラであり報酬は既に彼から受け取っている事と、ハドラーへの敬意から助力した事を告げて去ります。

そうか…
彼が獣王!獣王クロコダインか!

おお剛力無双と名高い荒武者の……
だとすればあの貫禄もうなずけるというもの…

その背にガンガディアとバルトスは彼が噂に名高い獣王クロコダインである事を察し、ソンケイを高めるのでした。
クロコダインは未来において魔軍司令ハドラーの下で百獣魔団長となる男ですから、この邂逅はハドラー配下の新旧幹部の顔合わせだったという事になります。
バルトス・ガンガディアからクロコダインへの印象は極めてよく、同時期にハドラーに仕えていれば良好な関係を築けたことは間違いないでしょう。 

……全く!憧れない…………!

……あんなデクの棒のことなどどうでもよかろう
ハドラーどのを見つけたのはこのワシ……ザボエラ!
ザボエラじゃよ!
見つけた場所がチと魔法を使う者には不利な所だった故
あの馬鹿力に助っ人を頼んだという訳だ
正しい恩人の名を忘れぬようハドラーどのによおく伝えておいてくれ

その呪法を解くのも難儀じゃろう?
困った時には遠慮せずワシに頭を下げに来い…!
キィッヒッヒッヒッ!

…………
知力さえ高ければ良いというものでもないのだな……
……全く!
憧れない…………!

更にクロコダインと入れ違いにザボエラが登場、所詮現場作業をしたに過ぎないクロコダインをこき下ろしながら自分の業績をアピールし、今後も協力する事を表明します。
今しがた快男児ムーブを見せつけ好印象を抱かせたクロコダインを下げつつ自分を上げるそのスタイルにガンガディア・バルトス側からの心象は当然最悪であり、ガンガディアには「全く憧れない」とまで吐き捨てられました。
基本的に知性至上主義だったガンガディアですが、あまりに品性の欠落したザボエラの姿には軽蔑の感情を抱き、「知力さえ高ければ良いというものではないのだな」と学びを得てすらいます。
こちらの邂逅もクロコダイン同様新旧幹部の顔合わせですが、わずかな時間で全員に嫌われており、どこの組織に行ってもザボエラはやっていけないという事がわかりますね。

ちなみにガンガディアの憧れの一つに「自ら発明した超呪文に自分で名前を付ける」というものがあり、時期は不明ですがザボエラはマホプラウスを開発した事でその要素は満たしているため、本当に能力的にはガンガディアの理想ではあります。 

余談 ザムザくんかわいそう

フフンッ
しょせんトロルやガイコツの知能じゃどうしようもあるまいて
すぐさまワシに泣きついて来るじゃろう
ザムザよ連中より先にハドラーを元に戻す方法を見つけ出すのだ!
よいな!

一応顔見せで連れてこられたけど何も言わずに立ってただけのザムザくんかわいそう。親に自尊心折られてる子供の姿そのもの。
その上搾取前提で凍れる時の呪法の研究もさせられてるし本当に可哀想。
結局頭下げに来なかったから無駄だったしね。
知らんうちにハドラー復活しちゃったからまたいじめられたんだろうな…悪魔の大目玉作ったのもザムザなのに業績奪われてたし、一生搾取されるだけの人生だったな…。
それでもザムザくんは最期超魔生物研究を献上して「研究はきっと妖魔師団が引き継いで完成してくれる」「オレのしてきた事は無駄じゃなかった」とつぶやきながら死んで行ったという。
本当に可哀想…。
うまく隠蔽されてただけで本来ハドラーにとってザムザさえいればザボエラ要らないのにな。 

凍れる時間の秘法

…いかんな 本に罪はない

ハドラーの身柄が地底魔城に戻って数日後、ガンガディアは荒れていました。
封印の呪法が凍れる時間の秘法であることまではわかったのですが、情報が足りずその解除方法を見つけることができないのです。
苛立ちのあまり文机を叩き壊すものの、冷静になって本を拾うガンガディア。

この時アバンも封印の際に巻き込まれたのだろうと推測しており、これは当てています。(こいつの脳味噌どうなってんだよ) 
ちなみに調査研究時の部下には祈祷師を用いているようです。
後にザボエラも妖魔師団で多く従えていた種族ですね。

神の御慈悲

問題は呪法の技量はどうあれ
アバンが皆既日食の力を利用していることだ
この時間の因果を解かぬ限り
数百年後まで手が打てん…

知識と知性を総動員しても凍れる時間の秘法を解除する方法が見つけられそうにないガンガディア。

しかし行き詰まり瞑目したその瞬間、彼の左手が勝手に動き出し秘法を解除する未知の儀式の執り行い方を描き出しました。
彼の背後に潜み密かに儀式の方法を伝えた人影はこれはハドラーへの神の慈悲であると呟いて姿を消します。
まあ要するに凍れる時間の秘法について見識があるミストバーンがハドラーを救うために闘魔傀儡掌でこっそり解除方法を伝えたわけですね。
説明のためにわざわざΣ●⇔〇みたいな図つけてやってるのかわいい。

秘法の解除方法については単に知性があればなんとかなるという性質のものでは無さそうであり、マトリフは「向こうにも知恵者はいるがギュータ*32もヨミカインも残っていない以上調べる方法がないからすぐには解除できないはず」と述べており、ザボエラに研究を命じられていたザムザも心中で「あの呪法が生半可な物でない事は父上とて一目見てお分かりのはず、全く未知の封印だ」と困難である旨を零していますから、同条件であれば基本的に誰がどう頑張っても無理だったと思われます。
そのため大魔王バーンの命で助け舟を出してやったのでしょう。
しかしマトリフはアバンがカノンから受け継いだ凍れる時間の秘法の魔導書を持っていたためこの遥か手前の時点で既に解除方法自体は見つけており、「アバンを解放するとハドラーの方まで解放されてしまうため、消滅呪文でハドラーの方だけを倒してからアバンを解放する」という目標で新呪文の開発を始めていました。

ハドラー捜索と凍れる時間の秘法研究のためにガンガディアはマトリフに対して一年の差をつけられており、これが後で大きく響いてきます。 

復活の儀式

皆既日食の起こった時間は正午
その真逆に位置する深夜の零刻に呪法を発動させ
凍れる時間の因果を解く!

ミストバーンにカンペを与えられてからさらに数週間後、地底魔城の闘技場でハドラー復活の儀式が執り行われました。
アークデーモン飛べるから物資運搬時高低差無視できるのいいな…)
アバンも復活させてしまう事と引き換えにではありますが、ガンガディアは主君の解放に成功します。
蘇ったハドラーに駆け寄るガンガディア。しかしハドラーの顔色はすぐれません。

アバンの理解不能な「強さ」に恐怖したまま封じられていたハドラーは、ガンガディアに「お前が俺を解放してくれたのか」と尋ねますが、ガンガディアはその誠実な性格から「誰かがこの儀式を教えてくれた」「見えざる神の手の救いとしか思えない」と答えてしまいます。
その答えを聞いた途端駆け去るハドラーは。
今度は祈りの間に飛び込んでかつて与えられた魔界の神の像に「自分を救ったのはあなたなのか」と問います…が、像は答えません。

理解不能な力で封じられた己を救ったのはまたしても理解不能の神。
ハドラーは動揺し叫びを上げます。
…まあ正直こういう形になってしまったのは仕方のない、ガンガディアには防ぎようのない出来事だったと思われます。
ザボエラを頼れば神の手を借りずに解決できたかというとやっぱり無理だった気がしますし、この形を取ってああ答えるしかありません。
しかしこの一連の展開のためにショックを受けたハドラーの精神は大幅に後退してしまい、魔王軍の敗北へと雪崩れ込んでいきます。


八巻以降

アバンパーティ及び人類の連合軍が地底魔城に攻勢をかけます。
ガンガディアはハドラーを防衛する布陣を敷き、マトリフとの最終決戦に臨みました。
この辺は普通に感想記事も書いてるのでよかったらお目通しください。
全ての戦いを勇者のためにせよ - 私の好きなもの友の会 
獄炎の魔王30話感想 - 私の好きなもの友の会
獄炎の魔王31話感想 - 私の好きなもの友の会  

防衛作戦

……ハドラー様
お叱りを覚悟で進言します
この場を決して動かぬようにしてください

勇者アバンのパーティが現れた事を知り、ハドラーに報告するガンガディア。
ロカとレイラも復帰したフルメンバーであったことから最終決戦の覚悟ありと判断し、防衛作戦を発動します。
それはハドラーに玉座で待機してもらうことでアバン達に地底魔城攻略を強要、配下が迎撃して撃破する事を目指し、仮に部下が全滅しハドラーが戦う事になろうとも、その時にはアバン側も十分「削れて」おり、有利な状態で戦う事ができる…というものです。

消極的で防御的な作戦ではあるものの、勝利のためにはこれこそが最良の策であり、どうか許して頂きたいと申し出るガンガディア。
ハドラーは凍れる時間の秘法を受けた時の恐怖を思い出し、沈黙の後にガンガディアの作戦を承認します。
しかし本編履修済みの方は承知の通り、この時アバン側が取った作戦こそが「全ての戦いを勇者のためにせよ」であるため、結局アバンはほぼノーダメージで玉座の間に辿り着いてしまいます。
まあ魔王軍サイドも全ての戦いをハドラー様のためにする事で相殺の形に持ちこめたとも言えるのですが…。

人間関係Ⅵ ハドラー様のために

作戦の承認を得たものの、ガンガディアはむしろその事にショックを受けていました。
普段のハドラーであれば万全の状態のアバンと戦う事にこだわり、ガンガディアの意見に反対したはずなのです。
進言を聞かないのが普通ですらあったハドラーが玉座での待機を受け入れた。

彼の精神状態が優れていないのはもはや明らかでしょう。
しかし凍れる時間の秘法を受けて一年近くも封印され、最近復活したばかりのハドラーが本調子でないのは無理もない話であり、むしろ異常なのはアバン達の闘志の方。

迎え撃つ!
我が生命と……
知性の全てを賭けて!

ガンガディアは己が全ての力をかけてアバン達を迎え撃つのだと自分を奮い立たせます。

夜襲と援軍

アバン達の地底魔城突入に先手を打って、ブラスの育成した魔物たちによるヴィオホルン外周部でのアバン達への総攻撃が行われます。
この軍勢はウロド荒野の時よりも質・量ともに圧倒的に勝っており、名有りの英雄が名無しのモブより圧倒的に強い無双系の世界観と言えど、突破するためには消耗は必至…、だったのですが、同時にアバンをサポートするべく人類側の援軍が参戦。

結局魔王軍の精鋭は援軍に抑えられてアバン達の無傷での突破を許したばかりか、アバンの手にはカール王家秘伝の聖剣・盾・鎧まで渡ってしまいます。
ディフェンスである魔王軍側もデルムリン島から精鋭を事前に徴兵したりと言った工作はしており、それ故想定外の増援の戦力を相殺できたとも言えるのですが、
はっきり言ってこのような事態は全くの計算外であり、それを実現したのはマトリフの事前の根回しで、その更に背景にあるのはガンガディアとマトリフの一年という時間の差です。

地底魔城探索自体もガンガディアがハドラーを探し回ったり封印の解除に苦戦していた一年の間に行われてしまっており、凍れる時間の秘法のダメージは戦略の上でも致命的に大きかった事がわかります。 

地底魔城戦法


魔物たちを巧妙に配置する事でアバン達を地底魔城の闘技場に誘導するガンガディア。
ダイの大冒険でヒュンケルもやっていた奴ですね。
どこかで誰かが教えていたのかもしれません。 

ガンガディア最後の戦い

……そう簡単にハドラー様の下へ行かせるわけにはいかんのでね
この闘技場はハドラー様の御前で
配下の魔物たちが腕を競うために建造された

だが今ではもっぱら
捕えた人間と魔物の戦いを見物するための娯楽施設となっている

これは失礼
君たち人間にとっては血塗られた死の舞台だな
まあいずれにせよ だ

私が勇者一行と雌雄を決するには最も相応しい場所と考えたッ!

あくまで人間を嘲笑する姿勢を見せてアバン達を挑発しつつ、
この闘技場はハドラー様の御前で戦うための場所である旨を告げ、己の決戦の舞台に相応しいと語るガンガディア。
中々盛り上げてくれます。マイクがうますぎる。
この時のガンガディアはまずマトリフを釘付けにし、倒す事が最大の目標ですが、
パーティ総がかりを選ばれた場合でも勝ち目が無い代わりにパーティ全体に大ダメージを与えられる目算が高いため、例によってどう転んでも利益の出る選択をしています。マジすげえよ。

逆に切り札となる呪文の関係上魔物たちと共闘できなかったのは惜しい所かもしれませんが。

中ボス特有の部屋に入った瞬間に扉閉まるやつ好き。

余談 地底魔城マント


ところで今回のガンガディアは普段の髑髏紋付きの袈裟とは別に上から白いマントを羽織っていました。

特に魔法反射のアイテムとかではなく早々に脱ぎ捨てられてしまうのですが、バルトスや旅姿のハドラーも同じようなマントを羽織っており、ヒュンケルも似たような白いマントを身に着けていましたから、地底魔城の正装なのかもしれません。
ダイの大冒険の回想におけるバルトスはマントを羽織っていない=獄炎の魔王で追加された要素である事もこの説を後押しします。
ガンガディアだけ留め具がの位置が逆?多分彼は左利きなので…。

 

余談 観光案内

……そう簡単にハドラー様の下へ行かせるわけにはいかんのでね
この闘技場はハドラー様の御前で
配下の魔物たちが腕を競うために建造された

本編のミストバーン同様ガンガディアも突然観光案内を始めています。
彼が地底魔城完成当初から魔王軍のメンバーであったことを伺わせますね。

据え置きのレイシストムーブ

だが今ではもっぱら
捕えた人間と魔物の戦いを見物するための娯楽施設となっている

これは失礼
君たち人間にとっては血塗られた死の舞台だな

最後まで人間を見下す姿勢は変わらなかったガンガディア。
マトリフの指摘した通り挑発の意図もあるとは思われますが、これ自体はやはり彼のナチュラルな価値観なのだと思われます。
人間は弱いから奪われる側だから弄んで殺していい。
真面目に身内で武道大会とかするよりもそっちの方が断然面白い。

誰が始めたにせよ、そういう思考が無ければ闘技場の運用目的は変わらないでしょうから。
多分ガンガディア自身も魔物と人間を戦わせるバカウケ面白企画の司会進行とかもしてたんだろうな。(キギロもそういうの好きそうだけど)
ちなみに獄炎の魔王におけるクロコダインも自分の配下であるガルーダに給仕してくれたヒュンケルを見て

……人間の子供にしか見えんが……
城の奴隷か?

というヤバ・レイシスト発言をしており、こうした思考が「強豪」にとって普遍的である事を示しています。
お礼はちゃんと言ってるのがむしろヤバく、「おっご苦労(人間?奴隷かな?)」という思考が何の疑問もなくスッと出るんですよね。
ナチュラルに見下している。

フレアボムズ


ガンガディアとの戦闘でアバンが消耗する事を回避するため、ガンガディアとのタイマンを企てるマトリフ。
火炎系呪文でガンガディアの氷系呪文による相殺を誘発、その爆炎と蒸気を煙幕にアバン達を突破させました。
この時マトリフは両手とはいえ火炎弾を五発放っており、フィンガー・フレア・ボムズを彷彿とさせます。

ダイの大冒険の前日譚である獄炎の魔王は戦いのレベルを本編と比べてデフレさせざるを得ないのですが、最終決戦ともなれば戦いのレベルも六大団長に迫るレベルになっているのかもしれません。
ガンガディアの呪文はマトリフの呪文を見事に相殺しており、彼のレベルもまた六大団長に近い領域に達していた事を伺わせます。
 

カール秘宝の盾


マトリフがガンガディアを釘付けにして一対一の状況を作ろうとしたことを察し、笑みを浮かべるガンガディア。
去り際にその姿から何かを感じ取ったアバンはフローラ姫から授けられたカール秘宝の盾を残します。
アバンマジでおかしいよ…。

マトリフVSガンガディア

……『悪いが』?
意味が分からないな
あなたは何一つ悪くない
この場を動かないというならば
私には感謝の気持ちしか湧かない……
この私と!二人きりで!
この場にとどまってくれるというならば…!
私の一番の望みは果たされたよ!
大魔導士マトリフ!

「悪いがこの場は動かさない、自分一人と戦ってもらう」と宣言するマトリフに対し、これこそが望み通りの展開であると笑うガンガディア。
お互いに知恵者であるが故の戦術の読み合いですが、今回はガンガディアが上を行きました。

語らい

……そうだな何から話そう?
おおそうそうウロドの戦いだ
あなたが見せた火炎系と氷系の呪文の融合爆発……
あれは凄まじかった
神業だ
あの後私も何百回も試みたが一度として反応を起こさなかった
ずっとこんな感じさ

二つの呪文の威力を正確に一致させなければあれは成功しない

以前ウロド荒野で誘発された「爆発」について語るガンガディア。
自分にはどんなに頑張ってもできなかった、とボロボロになった両手を見せます。
……そうだな何から話そう?」が素晴らしいですよね。
あなたに話したいことが沢山あるんだ」と言外に告げてくる台詞です。
また「ずっとこんな感じさ」からはガンガディアがその爆発の原理を理解していた事と、両手呪文が扱える事、そしてその才をもってしても「爆発」は実現できなかったことが読み取れます。

両手呪文自体が大賢者バルゴートや大魔王バーンをも感心させる才能であり、マトリフ自身も後に「できるか」自体を問う程の技術なのですが、「爆発」のためにはそこからもう一つ、二つの力を丁度合わせる才能が必要なのです。

超天才のマトリフはそれが本当にあっさりとできてしまうのですが、
ポップは苦戦し、ガンガディアにはいくら頑張ってもできなかった。

後にマトリフが語る「センスのえヤツには一生できねえ…!!」という言葉が重く感じられますね。
あれは「できない奴は才能がない」という意味ではなく、「ガンガディアですらできなかったのだから無理な奴にはいくら頑張っても無理」という意味合いだったのでしょう。
もちろんガンガディアより遥かに多くの時間をかけられたマトリフですら開発には多大な苦労を要しており、ガンガディアにもっともっと時間があればあるいは…という所はあるのですが。
(ガンガディア自体はメドローアを体得できなくてもフレイザードが早期に誕生したりしていたかもしれないので)

呪文の名前

ガンガディアが作り出した炎に自らの氷を合わせて誘爆させる程の神業を持つマトリフであれば、あの爆発を奥義として完成させていることは必定。
ガンガディアは完成したその呪文の名を問います。

…………メドローア

いいね憧れる
自分が生み出した呪文に名をつけられる者はこの世にも限られる……

つまり!
一番恐るべきはあなたと勇者アバンが二人でハドラー様と対戦する事だ!
勇者の必殺剣と大魔導士の超呪文
どちらかを削っておく必要がある!

想定通り極大消滅呪文「メドローア」を完成させてきたマトリフに賛辞を贈るガンガディア。
いいね」という言い方が本当に親しげで憧れと友好感情を感じさせます。
自分で呪文を生み出しそれに名を付けることは魔法使いとしては至上の名誉なのでしょう。

メドローアは魔王ハドラーをも倒しうる超呪文であり、必殺剣を有するアバンとマトリフを同時に相手取る事になってはハドラーと言えど勝ち目は薄い。最低限どちらかを削らなければならない。つまり、
極めて危険な存在となったマトリフは自らが処理しなければならない。

今やマトリフの危険性はベタンが最大呪文だった頃の比ではありません。
ずっと行ってきた、「危険なマトリフを自由に行動させないために自分がマトリフと対決する」作戦を今度こそ完遂しマトリフを倒す必要が絶対にある。
彼はそのためにマトリフを一対一の戦いに誘導したのです。
まんまと孤立させられた事を悟ったマトリフはガンガディアの知性を称え、ガンガディアは喜びに身を震わせます。 

告白

…………正直に告白しよう
私はあなたを尊敬している
敵であり人間でありながら
あなたの知性と魔力は私の憧れ 理想像だった

私は勇者一行の中であなたを一番高く評価している
あなたさえ倒せば全てが解決するとすら思っている!
倒した後勇者たちを追撃しハドラー様に加勢すれば勝つ事は容易たやすいからね!

マトリフへの敬意を告白するガンガディア。
度々書いてきた通り強い力を持った魔族・魔物にとって人間というのは蔑視の対象、下等種族ですから、ガンガディアが人間であるマトリフに敬意を抱いたというのは極めて異常な事です。
ましてガンガディアは地上制圧を掲げる魔王軍の大幹部であり、彼の人間全体に対する軽蔑は初期から全く変わっていませんから、マトリフの知性と魔力にはそれを差し引いても尊敬に値すると思わせるほどの輝きがあったという事ですね。
そして彼は今回それをついに告白しました。
しかしこの告白はまた同時に別れの言葉でもあります。

マトリフの生み出した超呪文であれ、自らの選んだ超呪文であれ、それらは必殺の威力を持ち、この戦いが始まれば必ずどちらかは命を落とし二人はもう言葉を交わす事は出来ません。
彼はきっとそのために告白を済ませたのでしょう。

ハドラーがマトリフとアバンを同時に相手にするような事になれば敗北は必至であるように、ガンガディアとハドラーの二人でアバン一人を相手にできるのであれば勝利は容易い。
そのためにガンガディアはマトリフを倒す決意を表明します。
これバルトスくんハドラー様と共闘すべきだったでしょ。 

禁断の書

ガンガディアの決意に応え、一対一の決闘を受諾するマトリフ。
しかしガンガディアはその答えに喜びつつも苦渋を顔に滲ませます。

ありがたい
…………だが残念だ

あなたと自分の能力だけで戦いたかった
だが私は魔王軍の幹部
ハドラー様のために勝利を手にしなくてはならん
冷静に判断し決断した
私の今の魔力ではあなたに太刀打ちできない

この禁断の書に頼る以外に勝利はあり得ない!

自力でマトリフと戦いたいという願いを持ちながらも自力ではマトリフに対抗しえないことを認め、ハドラー様のための勝利を求めてヨミカイン図書館で手にした最強呪文の力を借りる事を選ぶガンガディア。
「魔王軍の幹部である以上理想の戦いより確実な勝利を目指さなければならない」という言葉からは、「自分が魔王軍の幹部でさえなければ負けてもいいからただ魔法使いとして戦いたかった」「もっと研鑽を積みマトリフに正面から挑めるほどの魔力を得てから戦いたかった」という無念が感じ取れます。
ガンガディアの理想とは膂力をも覆す知性と魔力を自らの研鑽の果てに持つ…マトリフを超える事であり、「外部から力を借りてでも勝つ」と言った事ではありません。そのような選択は極めて不本意です。
しかし客観的に見て今の自分の魔力ではマトリフに勝てない。
魔王軍の幹部として必要な事は己の満足のための戦いではなく勝利のための戦い。
そのために最善を尽くす事が忠義。

知将ガンガディアの本領発揮ですね。
魔導図書館を破壊した時やウロドでルーラからの打撃を選んだ時と同じ、不本意な形となっても、客観的に見て最大の利益を得られる選択肢が選べる判断力。
これこそがガンガディア最大の強みあり、本当の意味で彼の知性の証明ともいえるでしょう。
ガンガディアはポップに対するシグマのポジションですが、魔法使いとしての力量ではやはり大きく劣っており、自力ではマトリフに対抗しえないという診断は完全に正しいです。
彼の判断はいつだって正しく、そのために不本意な「魔導書で力の差を補って尊敬する相手を殺害する」という選択を取れる意思力はまさに凄まじい。

(「ハドラー様のために」と語るコマで闘技場の貴賓席が映るのが芸術的だなと思っています) 

余談 マトリフはマジで強い

今更語るまでもない事ですがマトリフは本当に強いです。
勇者アバン環境は魔王ハドラーが最強の環境定義キャラなのですが、その魔王ハドラーの強さが「3分間フルパワーで戦えるブロキーナ相手に釘付けにはされるものの絶対に押し勝ちできる」というものであり(強すぎる…)、
要するにバーンパレス環境で通用するラインが勇者アバン環境の上澄みだという事になるのですが、
メドローアを持つ大魔導士マトリフは当然ながらそのラインにいます。

体力的には落ちるのでしょうが、立ち回りの器用さは恐らくポップの上を行き、ポップがシグマを驚かせた致命打を即座にベホマで回復する立ち回りも実はデフォで常に行っています。

(でもフューレにメラゾーマ跳ね返されたときは流石に致死ダメージ入ってた気がするんだけどな…)(マトリフだけHP管理ドラムロール制になってない?)
対するガンガディアの強さはいいとこ六大団長下位程度であり、まともにやったら本当に勝ち目はありません。
すなわち、ガンガディアがマトリフに対抗するためには、よほどの無理が必要なのです。
 

ドラ!

ガンガディアの切札である呪文書を前に警戒するマトリフ。

いや!落ち着け!
どんな古代の超呪文でもメドローアに勝るものなんざそうそうねえはずだ!
魔法で戦う限りこっちに分がある!

対するガンガディアは魔力を高め、呪文を唱えます。

瞬間、異形化するガンガディアの右腕。
巨大な爪の一撃がマトリフを襲います。

(……体力強化の呪文!?
 ま…まずい!
 居直ってこいつにパワーで押されたら…!)

そう!
いかにあなたのメドローアが強力でも
あれだけの神業……
二系統の呪文を一瞬で合成する事は出来ないはずだ
あなたを上回る体力!パワー!
それで押し続ければ呪文を作る事は出来ない!

 

ドゴラム!

合成の手順が存在する以上メドローアの使用には他の呪文以上の時間が必要である事を見抜いていたガンガディアは、自身の接近戦を強化してパワーで攻め立てる事で合成を行わせない事を選びました。
サババ・ウロドにおける「強力な呪文を使わせないために常に接近して戦う」「魔法使いは物理で叩かれれば脆い」を強化したような作戦ですね。 
呪文合成の隙を与えまいと力で押しまくるガンガディアに対し、呪文合成の時間を稼ぐため氷結を試みるマトリフ。
しかしガンガディアはさらに変身を進め、口から吐き出した炎で氷系呪文を掻き消しました。

巨大な爪、二本の角、裂けた口、吐き出される炎。
ガンガディアは言います。

ここまでは試した 最後のひとつは初めてだ
これが一番私を強くできる呪文だとは知っていた
それでもなかなか使う気にはなれなかった
私の理想とは真逆の戦い方になるからだ
だが!私は自分を捨てても今ここであなたを倒さなければならない!

見たまえ!己を捨てて獣と化した我が姿を!

 

ド・ラ・ゴ・ラ・ム!!

マトリフの前に立ちふさがる巨大なドラゴンの姿。
ガンガディアの切札は最強の生物ドラゴンへと変身する火竜変化呪文ドラゴラムでした。
ドラゴンの炎の性質に気付き戦慄するマトリフにガンガディアは語り掛けます。

…………理解したようだね
ドラゴンの炎はブレス
魔法力ではない!
ウロドの時のように氷系呪文ヒャドを重ねられて爆発させられることもない!
ただただ私のこの暴力に…
られていただきたい!

吐き出される猛烈な火炎。
マトリフはトベルーラでうまく回避し、ガンガディアに氷系呪文を雨霰と浴びせますが、完全な竜となったガンガディアの身体には全くダメージを与える事ができません。
もはやベタンで潰す以外に手はないと上空に逃れるマトリフですが、竜の翼の飛行速度はマトリフの飛翔呪文トベルーラを凌いでいました。


尻尾の一撃を受け呪文を唱える間もなく叩き落とされるマトリフ。

(………打つ手が
 ……ねえ!
 ただでさえ並外れたパワーのガンガディアがドラゴンの力を得ちまったんだ!
 こいつ相手にはもう……
 何もできねえっ…!)

自分の持ちうる対抗策全てを摘み取る火竜ガンガディアの威力はマトリフを絶望の淵に叩きこみます。

心理的超魔生物

火竜ガンガディアの戦いはガンガディアの理想とするスマートな姿ではなく、使っているのは自慢としていた器用な魔法の技でも、理想としていたオリジナルの超呪文でもありません。
読んだ魔導書から得た超呪文で暴力を強化して破壊するだけの戦い。それどころか変身を重ねる程に忌み嫌っていた暴力の怪物としての要素が強まっていき、最後には破壊の化身であるドラゴンにまでなってしまいました。

しかしマトリフ自身が「どんな呪文でも魔法で戦うならこっちに分がある」と自負していた通り大魔導士マトリフの強さは極限のレベルにあり、魔法では勝てないのです。
それを崩すための「近付いて殴る」という戦法も単調に試みては最初の時のようにベタンの餌食となる事は明白で、一度見せてしまったルーラパンチももはや通用しないと考えられる以上、ガンガディアが勝つためには不本意な「近づいて殴る」を極限まで強化する何かが絶対に必要でした。
そこで彼は全てのこだわりを捨てて火竜変化呪文ドラゴラムを選んだのです。

火竜ガンガディアの「戦い方へのこだわりを捨てて勝利のために全てを費やす姿勢」はまさに超魔ハドラーと同じであり、ガンガディアは精神的には既にその域に達していたと言えます。(ハドラーの「戦い方へのこだわり」についてはこちらをお読みください)
火竜ガンガディアの猛攻を前にマトリフはとてもメドローアを作る隙が無く、他の術で攻めようにももはや単純なヒャド系ではノーダメージ、竜の炎は魔法力ではないため誘爆させる事もできず、距離を離そうにもドラゴンの飛翔速度はマトリフのトベルーラを上回り、頼みの綱のベタンも使用自体させてもらえない…と、これまで使用してきたガンガディア攻略の手札は全て対策されてしまっており、マトリフにはもう手がありません。

使用時期 攻略法 対策
ヨミカイン ベタンで潰す ベタンの使用を察知して潰す
サババ トベルーラで離脱 それを上回る飛翔速度で離脱自体を阻止する
ウロド 相手の炎系呪文を利用した誘爆 魔法力を含まないブレスで
原理的に誘爆を回避
地底魔城 氷系呪文連打 そもそも効かない
地底魔城 メドローア パワーで押し続けて合成の時間を与えない

徹底的な対策、ガンメタです。
かつての切札であり、ガンガディア側も常に全力で対策する必要のあったベタンすらも通用しないのは絶望感がありますね。
サババの時もガンガディアはベタン対策の接近戦を行ったとはいえ、両者のトベルーラのスピードが互角でチェイスになってしまった(ガンガディア側も常に追い続ける事を強いられていた)事で一杯食わされましたが、今回彼はトベルーラよりも速く飛べる竜の翼を得ていたためベタンの使用を「見てから潰す」事ができ、つまり自分は物理の圧倒的パワーで攻めつつ、距離を置いての呪文戦は一方的に拒否する事が可能になっています。 

走馬灯

絶望の中横たわるマトリフは賽の河原で姉弟子にあたるカノンと再会します。
死ぬにはまだ早い、空が見えているのだからルーラで逃げればいい…と生きるための選択肢を示すカノンですが、マトリフは逃げるわけにはいかないと却下します。

ここでオレが一度逃げたらガンガディアの勝ちだ
また戻ってくる頃にはアバンたちもやられちまってる
オレには絶対奴をこの場で倒す必要があるんだ

それにガンガディアから逃げるわけにはいかねぇ
あいつも人間を苦しめてきた魔王軍の悪党だが
オレを宿敵と認めて真っ向から挑んできてくれた
自分のこだわりを捨ててまでな…!
これを逃げるわけにゃいかねぇのよ

逃げはおおかた悔いを残す
最近気づいた事だ

アバンパーティの一員として逃げるわけにいかないし、宿敵としてガンガディアから逃げるわけにはいかない。そう答えたマトリフに幻のカノンは激励の言葉をかけ、決意を得たマトリフは再び立ち上がります。
襲い掛かるガンガディアのとどめの一撃。

しかしマトリフはアバンの託したカールの盾を手にしそれを凌ぎました。
マトリフの「魔法使いは常にパーティのために存在する」という哲学と、ガンガディアを「悪党であっても好敵手」と認めて誠意を尽くす姿勢が光るシーンですね。
敵であっても敬意に値する相手には戦士としての礼を尽くすのはダイの大冒険世界における戦士のルールです。後のポップVSシグマにも通じる所がありますね。
多分一人だけでは立てず、立ったところで生き残れなかったであろうところを心の中のカノンの助力を得て立ち上がり、アバンが託した盾を得て生き残るという展開も素晴らしい。
対するガンガディアは今や一人…。
なお、仲間たちという差によって勝機は逃しましたが、「よーいドンのタイマンでは完全に勝利していた」という部分は非常に高く評価できる点だと思われます。
ウロドの時はハドラーによるバフ(ハドラー魔王軍の増援)を受けた上での初見殺しでしたからね。*33 

余談 逃げはおおかた悔いを残す

逃げはおおかた悔いを残す
最近気づいた事だ

私も読み返していて最近気づいたのですが、このセリフはカノンとマトリフが互いに想いあっていながら気持ちを伝えず悲恋に終わった事にもかかってるんですね。
なおカノンとの問答は3ページくらいやってますが、直前のコマと直後のコマがどちらもガンガディアのブレスチャージなので、実際には一瞬の出来事だと思われます。

余談 突然のブレス属性


ブレス属性・ブレス反射の概念が突然出てきたの何度見ても面白い。
確かに地底魔城突入回でのお披露目シーンでブレスを跳ね返していたので伏線は貼られていたのですが、フレイザード編ではアポロがフバーハでブレスのみならずメラゾーマも防げそうな雰囲気を出していたためブレス属性の概念はないものだと思っていました…。

最後の武器

アバンが直感的にマトリフのための防具を残して行った事に驚愕するガンガディア。

…………やはり私の考えは間違っていなかった
このままあなたを倒しそしてアバンも…!

アバンの危険性を改めて認識したガンガディアはマトリフを倒しアバンを追撃しようと意気込みますが、「そうはいかねえ」とマトリフは己の勝利を宣言します。
ドラゴラムの威力に圧倒されて忘れていた、己に残されたたった一つガンガディアに勝る武器。

おまえも褒めてくれたじゃねえか
オレの最後の武器は……
ココさ!

最後の武器は頭。
正面切っての勝負ではかなわなくとも、マトリフには圧倒的な体格差を覆すほどの知力があるのです。 

知っている

…………
最後の武器は「ココ」……
「頭脳」ということか
知っている!百も承知!
あなたのその最大の武器を押し切るために私は……
この竜の姿になったのだからな!

最後の武器は頭脳、知力によってガンガディアを打ち崩すと宣言したマトリフに対してマトリフの頭脳は知っている、それに勝るためにドラゴラムを選んだのだと襲い掛かるガンガディア。
ブレスを吐きかけ、盾で身を固めた所を尻尾で打ち据えます。
マトリフは吹き飛ばされながらも盾を持っていない右手で火炎系呪文をばら撒きますが、竜の身体には相変わらずダメージを与える事ができません。
ガンガディアは再びブレスを吹きかけ、邪魔な盾に爪を振り下ろします。*34

その頭脳をもってすれば理解しているだろう!?
状況が好転していない事に!
たとえブレスを防げるアバンの盾を手に入れた所で
魔法使いの腕力は勇者や戦士に及ばん!
片手にはめて楽々とつかいこなしたりはできん!
つまり両腕が自由に使えなくなるのだ!
それはメドローアにとって致命的!

こいついっつも相手の立場に立って物考えてんな。
ガンガディアの指摘通りマトリフではアバンの盾で身を守りながらではどう頑張っても片手での呪文しか使えず、それでは有効打になり得ません。そして盾によって防御を固めた所で徐々にダメージは嵩んでいくのですから、この戦法が先行きの無いジリ貧であることは明らかでしょう。
再び片手で火炎系呪文を放つマトリフ。
しかし結果は同じです。

そんな小手業効くかッ!

強靭な身体で呪文を跳ね返し、再び尻尾の一撃を見舞うガンガディア。
マトリフは場外にまで吹き飛ばされ、闘技場に竜の咆哮が轟きます。
この場面のガンガディアは「マトリフを自由にさせては必ず逆転されるという信頼が故に、マトリフ側に作戦があろうがなかろうが何もさせず圧倒的な力で押し切る」という作戦ですから、マトリフが何もできていなさそうならガードを固められていようが力押しでいいんですね。
マトリフの知力は知っている。だから発揮させない。
 

根性

…………さすがだ
だが……
それは「頭脳」ではなく
「闘魂」とでも呼ぶべきものではないかな?

吹き飛び倒れたマトリフに追撃のブレスを見舞おうとするも、
尚立ち上がろうとする彼の姿を認めて賛辞を贈るガンガディア。

歯を食いしばって立ち上がりながらマトリフは笑います。

……ホントだよ……
そういう根性論っぽいのが
誰より嫌いな人間だったはずなのになあ……
無茶な仲間たちにすっかり毒されちまってよお

クールが信条のマトリフの熱血ド根性ファイト。
かつてメドローアを開発していた時にも同じような独り言を言っていましたが、

あーくそっ
オレ今人生で一番努力してるよなあ…
んなことしょうに合わねえはずなのに
ロカのお人よしだけじゃなく
アバンの生真面目までうつっちまったのかね

アバンたちとの出会いでマトリフは変わったのです。 

終わる

マトリフが立ち上がったのと同時に、とうとう砕け散るアバンの盾。
もうマトリフにガンガディアの攻撃を防ぐ術はありません。
マトリフはヒャドを構えますがその輝きは小さく、ガンガディアはそれではブレスを相殺する事すらできないと告げます。

次で…終わる!

ああ…終わるな

同情してもらって恐縮だが心配無用だ
これでないとダメなんだ
このちっぽけなのがいいんだよ
このサイズに整えるのが…難しいのさあっ!

刹那、ブレスを放つため息を吸い込んだガンガディアは足元に燃える、先ほど弾き飛ばした小さな炎に気付きました。
マトリフの手から放たれた小さなヒャドが、ガンガディアの足元の小さなメラと結びつきます。
まさかと動揺するガンガディアにそのまさかだと答えるマトリフ。

おめえの炎が呪文じゃないなら自前で用意するっきゃねえだろ?

そして二つの小さな呪文は融合爆発を引き起こしました。
今度は天才マトリフの本領発揮ですね。
バルゴートに初めてその現象を教えられた時にはあっさりと他人の極小のヒャドに自らのメラの威力を合わせてその原理を体得し、ウロドでガンガディアにとどめを刺されそうになった時にはその最大火力のメラに自らのヒャドの威力を合わせ大爆発を引き起こし…と、マトリフは二つの魔力のバランス調整に関しては天才ポップをも遥かに超える才能を持っており、自分の両手のバランスで苦労するとかそういう次元には最初からいません。
大魔導士マトリフなら自らの放ったメラに自らの放ったヒャドを合わせてメドローアを作る事さえも可能なのです。

それにしても放って弾かれた遠くのメラの残り火に自分の射出したヒャドの威力を合わせるというのは神業中の神業としか言いようがない気がしますが。

極大消滅呪文

咄嗟にガンガディアは空に逃れますが、その翼と尾は大きく抉られていました。
苦痛の叫びをあげ、動揺しながら起こった現象を理解しようとするガンガディア。
故意に弾かせて残したメラに完全に威力を合わせたヒャドを放ちその合成によって小さなメドローアを作ったというのか、目視しただけでそんな計算ができたというのか。
驚愕しながらマトリフを振り返るガンガディアの目に飛び込んできたのは完全なメドローアを構えたマトリフの姿。

……で
今の小爆発を見せればおまえさんは動揺する
頭がいいからな
一番欲しかったのは…
その時間スキだ!

メドローア!!!

翼で飛翔しメドローアから逃れようとするガンガディア。
首から肩にかけてをごっそり抉り取られたものの全身が消滅する事態は回避します。
しかしマトリフの狙いは喉元でした。
例え直撃はさせられなかったとしても喉元を抉る事ができればそこには竜がブレスを吐くための火炎器官があるのです。
火炎器官が引火し竜となったガンガディアの身体は大爆発を起こしました。
粉々になった竜の肉片が闘技場に降り注ぎます。
ガンガディアがマトリフの頭脳を理解していたように、マトリフもガンガディアの頭脳を理解していた。
マトリフはガンガディアと逆に故意に相手の頭脳を働かせてその隙を狙う戦術を選んだんですね。
小爆発後の隙に限らず、マトリフの根性に対して賛辞を贈った事にしても、マトリフの構えた小さなヒャドの意図を考えた立ち止まった事にしても、ガンガディアが「とりあえずブレス撃っちゃえ!」というタイプであればマトリフの行動は成り立たずそこで勝負は決していました。
マトリフの立ち回りはガンガディアの性格に支えられたものであったとも、ガンガディアを理解していた事に裏打ちされた作戦であったとも言えるでしょう。
竜の姿となった事でマトリフを圧倒したガンガディアですが、最後は竜の姿となった事が災いし爆発する結果となったのも渋いですね。
それにしてもマトリフ、さりげなくメラをばら撒いて布石を打ち超技術で小メドローアを生成、ダメージを受けたガンガディアが動揺する事で生じる隙を前提にメドローアを構え、更に狙いは直撃をかわされても致命打となる喉元を選ぶの本当に頭の回転が速すぎる。
RTA走者の動きですよコレ。なんでドラゴンのパワーでボコられながらこれできるんだ…。 

決着

爆発して墜落したガンガディアに歩み寄るマトリフ。
引き裂かれたその姿は既にデストロールに戻っていました。
半身*35だけとなり炎上しながらもガンガディアはマトリフの勝利を称えます。

……見事だ大魔導士

自分の頭脳を信じて耐え抜いたあなたの知恵と魂の勝利だ

「まともにぶつかっては勝てないと早々に判断できた」
という点においては
私の頭脳もまずまずだったとは思うが…

マトリフは沈痛な面持ちで黙り込んだままですが、ガンガディアはその身を焼かれ今にも死に逝くというのに笑顔です。

おおそうだ……

ガンガディアがマトリフ差し出したのは先ほどまで使用していたドラゴラムの魔導書でした。
自分と共に燃えてしまうには惜しいというガンガディアですがマトリフは相変わらず暗い顔のまま自分の体力ではこんな超呪文は扱えないと答えます。

オレの体力でこんな超呪文できるかよ

ならば勇者にでもあげたまえ
敵に奪われるのを防ぐためとはいえ
魔導図書館を破壊したのは私の大きな心残りなんだ
あんな素晴らしい知の泉を……


複雑な面持ちで魔導書を見つめるマトリフ。
ここまでほとんど聞いているだけだったマトリフですが、沈黙の後に今度は自分からガンガディアに話しかけます。

………なあ

オレはよ
実は超天才でな

笑顔で、堰を切ったように語り出すマトリフ。

若い頃から師匠以外の誰にも負けなかったから張り合う相手ってのがいなかった
一人強ぇ奴はいたが惚れた女だったんで本気で争ったりできなかった
だからよ
殺し合いをしといてなんだが……
今不思議と嬉しい気分なんだ…
お前さんは初めて出会った
俺の血を沸かせてくれる素晴らしいライバルだったぜ
ガンガディア……………………!

……そうか
そちらもすでに知っていることかと思うが……
あなたに評価されると――――
最高に嬉しい……………

あばよ…
好敵手

安らかな笑顔のままガンガディアは事切れました。
そしてその姿に別れを告げて歩き出したマトリフもまた、ダメージのためにその場に倒れるのでした。
自身の全存在を賭した勝負に敗れながらも笑顔でマトリフの勝利を称えるガンガディアがまず目を引きますね。
敗れて命すら失う事になったものの、それは全力の勝負の結果それでもなおマトリフの知恵と魂が上を行ったためであり、それほどの相手に敗れたのなら、知性を信奉するガンガディアとしてはもう悔しがるような事ではない。
魂を称えているのもシグマを思わせます。

「満足のいく勝負だった」という奴でしょう。
彼に唯一心残りがあるとすれば魔導図書館を破壊した事。
人間を殺す事にはためらいも罪悪感も抱かず、娯楽とすら述べる価値観のガンガディアですが、任務であっても己が知を破壊した事には罪悪感を感じていたのです。
マトリフに魔導書を託したのは知性を信奉する者としてその罪を少しでも贖いたかったのではないでしょうか。
己を超える素晴らしい知の巨人に敗れ、己の罪を償いながら死んで逝けるなら彼としては一つの理想形なのでは。
対してガンガディアが話している間、勝者であるマトリフの表情はずっと悲痛なままでした。
ガンガディアが己を称え、超呪文の魔導書を譲り渡してくれているというのに、見たもの聞いた事に漠然とした感想を述べているだけで気の利いたジョークも皮肉も無し。全く頭が回っていません。心ここにあらず。
しかし話し出した時、彼は笑っていました。
かつて己は対等のライバルを持つことができなかった、俺たちは殺し合ったけど、殺し合いなんてことができたお前は俺の人生で出会った初めての対等の敵、初めての素晴らしいライバルだった。
ガンガディアはその傑出した能力のために孤独でしたが、マトリフもまた孤独だったのです。
戦う内に二人は互いに、初めての「対等の相手」を得ていたのでしょう。
しかし敵であったが故に、マトリフはそんな「初めてできた対等の相手」を自らの手で殺す事になってしまった。

だから倒れたガンガディアに歩み寄った時、マトリフの表情には悲痛さが滲んでいたのだと思われます。
笑顔で語られたマトリフからガンガディアへの言葉は、ガンガディアの「告白」同様もう二度と話す事のできなくなる相手への手向けの言葉なのでしょう。
ガンガディアにとっての「大魔導士マトリフ」が「心からの敬意を向ける超天才」である事を考えると、自身の口からガンガディアを「素晴らしいライバルであった」と述べる事はマトリフ視点でガンガディアに贈れる最大の賛辞であり、あの場でできる最高の贈り物・敬意の表現です。
ガンガディアを称えた時マトリフはまだ笑っていましたが、話し終えてガンガディアが目を開くことも顔を上げる事もできなくなった時、もう笑ってはいませんでした。
マトリフは多分ガンガディアのために笑っていたのではないでしょうか。
好敵手の最期を少しでも良いものにするために。

*1:本編で言う所の旧魔王軍

*2:腕力も込みで

*3:「デカブツ」等のワードが地雷

*4:クロコダインのオマージュですね。クロコダインは無傷でしたがガンガディアは出血していました

*5:アバンパーティの戦士。ポジション的にはヒュンケル

*6:本編当時の構想では元々ブラスとバルトスとキラーマシーンで幹部みたいにしたいという案があったようなのですが、彼らと同格のガンガディアの作品という事で近い形にはなりましたかね

*7:まあハドラー魔王軍の方針が「楽しく世界征服」みたいな感じなので相当舐めプしており、やろうと思えばいつでも国落としくらいはできたのだと思いますが

*8:人間じゃないけど

*9:まあエビルマージの方がやった可能性もありますが、どうせ技術共有はなされているでしょう

*10:パプニカとか実質はキラーマシン一台で落とせてたしな

*11:ハドラーくんもじわじわ軍を進めて侵略してるようで気分がノると全部無視して王城突撃とか始める

*12:彼らはバランの存在を把握してないのでその後に待っているのは破滅ですが…

*13:まあマトリフが封印された時点では魔王軍の地上侵攻は行われていないのでガンガディア視点でも彼は本当に盗掘者ではないのですが…

*14:ロカやべぇな…

*15:娘に遺伝した口殺法成分かもしれない

*16:まあマトリフは生きてましたが

*17:本人の資質は賢者寄り

*18:マトリフの師匠。幻の賢者と呼ばれる

*19:ベタンで潰されてる時すごい表情してましたよね

*20:逆に大魔王バーンはその魔力故に溜めが不要でノーモーションで呪文を放てるため「二回行動」が可能

*21:トベルーラないのに超スピードで動き回りながら呪文戦できるレイラおかしいよ

*22:まあ一応港から町の外側の方に歩いて行ったのでその時に見たのかもしれませんが

*23:オトギリ姫的には恐らく「下等種族」

*24:今気づいたんですがだからオトギリ姫の回でジニュアールⅠ世の話出たんですね

*25:実際にはガンガディアの方が格上ではありますが

*26:有体に言えばハドラーは邪気リクルートで人事ガチャをめっちゃ引ける

*27:この辺やっている事はクロコダインの獣王の笛の拡大版であり、ハドラーは規模のデカいクロコダインなのだと考えられます

*28:実際ハドラーにスカウトされる以前はそうだったのではないでしょうか?

*29:あの世界において地上の魔族魔物間で貨幣経済を行う事は困難そうなので釣り合うだけの価値のあるアイテムである等の可能性もありますが

*30:と言っても本当に逃げたければルーラがあるんだからそこで情報を掴んだくらいの事がそこまで意味があるのかは微妙ですが、作中では意味があるという事になっているので意味があると考えます

*31:まあ魔族は長命なのでハドラー魔王軍がどのくらいの期間準備して旗揚げしたのか定かでありませんが

*32:マトリフが若い頃に修業した土地。アバンが使用した凍れる時間の秘法の魔導書もここから持ち出されたもの

*33:ドラゴラムも初見殺しではありますがわかってたところでマトリフ単独ではどうにもならない

*34:ここ踏みつけとかにすれば勝てたような気もするんですが…

*35:半分も無いですが